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卵胞発育 up-to-date

長谷川 昭子

2016年度 年次大会-講演抄録 | ART update

学会講師 : 長谷川 昭子

Abstract

卵胞発育には,ゴナドトロピン依存性の時期と,非依存性の時期があることはよく知られています.ゴナドトロピン非依存性の初期卵胞発育の機序の解明は,未発育卵母細胞を培養系で発育させ成熟に導く技術開発の基礎となります.この技術開発は,早発卵巣不全(POI)や,がん治療前に実施される卵巣凍結の分野で期待されています.培養による発育誘導の最大のメリットは,卵巣内で通常は消滅する運命にある多くの卵母細胞を有効に利用できることです.またがん寛解後の妊孕性回復においては,凍結保存した卵巣組織を移植せずに培養系で卵胞を発育させることで,悪性腫瘍細胞の混入による原疾患の再発を回避することができます.

我々はこれまでに初期の卵胞発育を促進する培養法の開発に携わってきました1).ゲル培養と液体培養を組み合わせた2-step培養法を考案することにより,マウスの一次卵胞から産仔を得ることに成功しました.しかし成功率は低く,さらなる改善が必要でした.そこでマウス卵胞発育系を用いた遺伝子発現解析を行い,オートクライン・パラクライン因子として卵母細胞が発現するGDF9,BMP15 をはじめ,IGF1,KITL,BMP4,PDGFなどが高い発現を示すことを明らかにしました.しかし実際の培養系に添加して,初期卵胞発育を著明に促進する因子を見つけることはできませんでした2).重要なのは単一分子の発現量ではなく,細胞活動を活性化シグナルの視点からとらえる研究であると考えられました.

その観点から,Reddyらにより画期的な発見がなされました.彼らはタンパクのリン酸化抑制酵素の一種であるPTEN (Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)のノックアウトマウスにおいて,卵胞発育が幼若期に著しく亢進し,その以後POIに陥ることを報告しました3).この研究はPTENがAKT のリン酸化を阻害することにより,原始卵胞の休止状態を維持することを明確に証明しました.これを基礎にPI3K-AKT関連パスウェイの活性化が,人の不妊症治療に応用できるか検討されています.また最近私たちは,ヒト卵巣に発現するGremlin-2が卵胞発育阻害に関与する可能性を示しました.この分子は顆粒膜細胞に存在するBMP レセプターに拮抗してSmad1 /5 / 8 系の細胞内パスウェイを抑制し,結果として卵胞発育を抑制していました4).Gremlin-2の阻害,またはSmad1 /5 / 8 パスウェイの抑制解除が,卵胞発育促進のカギになるか今後検討していく必要があります.

卵胞発育は促進作用と抑制作用により制御されますが,培養系でそのバランスを促進方向にシフトさせることは容易ではありません.促進因子の探索ならびに抑制解除にかかわる分子群を,シグナルパスウェイを基軸に検証することが画期的なブレイクスルーにつながると考えています.

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