Papers and Abstracts

論文・講演抄録

プレコンセプションの段階における意思決定支援

久保島 美佳

2016年度 年次大会-講演抄録日本生殖看護学会パネルディスカッション

学会講師:久保島 美佳

Abstract

ライフスタイルの多様化や女性の社会進出に伴う晩婚化・晩産化は,妊娠・出産適齢期を先送りにさせてしまうことがある.近年では,凍結技術の進歩により,がん患者の妊孕性温存や加齢に伴う卵質の低下前に未受精卵子を凍結保存する社会的適応の凍結等が話題になっているが,本来は,将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自身のライフスタイルや健全な生活をプランニングする機会やそれを巡る意思決定支援の機会を得ることが重要である.

コンセプション(conception)とは受胎や妊娠を意味し,プレコンセプションとはその前段階であり,将来の受胎や妊娠を考えている対象が今回のテーマである.当院では,2010年から不妊治療を受ける方の意思決定支援を目的にした不妊相談窓口「看護師外来」を行っているが,その対象を不妊治療中だけではなく,医療機関に受診していないがコンセプションをめぐる相談を必要としている人に対象の幅を拡大し,相談対応を行っている.

2010年から2016年6月までの相談件数は130件,そのうちプレコンセプションの相談は14件(10.8%)であった.相談内容は,既婚者からの相談では,妊娠の仕組み,不妊治療の流れ,一般不妊治療とART治療の違いといった基礎的なものや40歳台だが妊娠は可能なのか,タイミングの持ち方,SexLess の相談などがあった.未婚の対象に関しては,男性が,自身のパートナーが多嚢胞性卵巣症候群で悩んでいるがどうしたらよいかといった相談もあった.ライフスタイル上の問題としては,親の介護のため子供を持つ選択肢が念頭になく現在に至っていることや,夫の不妊治療への非協力,死産を経験し現在妊娠に至らないが不妊治療をした方がよいのかといった相談などもあり,通院していなくてもプレコンセプションの段階で多岐の相談が挙げられていた.プレコンセプション段階の対象には,妊娠や不妊に対する基礎知識の確認,相談者の希望,これまでの経過や今後のコンセプションに対する思いを傾聴し,思いの整理を支援することが重要であるとともに,年齢やAMH等の卵巣予備能に沿った見通しや経済的側面,ライフステージに合った選択ができるよう相談対応をすることが重要である.

相談者からは,治療開始前に妊娠や不妊の知識を持つことができ良かった,専門職に話を聞いてもらえて良かった等の評価があった.プレコンセプション段階における意思決定支援は,コンセプションに向かう行動や不妊治療をいつから開始するのか,どのような治療を行うのか等,女性やカップルが自分たちの生活や健康と向き合って自分らしい人生の選択が可能となるよう支援するために重要な時期であると考える.今後は,妊娠・出産に伴う心疾患や腎疾患のチェック,女性に多く,かつ妊娠によって悪化しやすい甲状腺疾患や流産の要因となる自己免疫疾患の血液検査,子宮がん検診,貧血等の検査も希望により行え,将来の妊娠を考えるだけでなく,それに適応できる状態かを精査できる看護師外来妊としての役割を今後は果たして行くことができればと考えている.

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