Papers and Abstracts

論文・講演抄録

ラボにおけるExcellent ARTとは

内山 一男

2017年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会 Workshop Excellent ART への挑戦

学会講師:内山 一男

Abstract

当院における採卵の特徴は自然周期を含む低刺激採卵周期で行なうことである.
低刺激周期は過排卵周期に比べ回収される卵子数が少なく,2016年当院の採卵件数は25,323周期,採卵総個数は45,025個で一人当たり約1.7個であった.
少数の卵子であっても患者の負託に応え受精卵を得,良好胚を育て移植し,挙児を得るにはラボワークが非常に重要である.どの培養士が行っても,何時行っても同じ結果,判断の得られるラボワークを私達は目指している.

例えば精液検査において,MAKLER CHAMBER®を用いた目視法からSMAS(sperm motility analysis system)に変える事で,培養士間で生じる誤差,培養士固有の誤差が改善し飛躍的に精度が向上した.また精子形態判定においては,MAKLER CHAMBER®で同時に行っていたものを,無染色標本作製による簡便で簡易的な精子形態判別法を独自開発しKruger法と差のない判定結果が得られる様になった.

卵子においては,採卵直後に,卵丘細胞卵子複合体(COC)を倒立顕微鏡下200倍で伸展観察し第1極体の有無を調べ採れた卵子の成熟度を正確に判定している.
同時に得られる客観的な卵子や透明帯の情報はテーラーメイドな媒精方法の選択を可能とした.ICSIにおいてはオリンパスと共同開発したIX ROBO-Polar は,DIC とpolarizationのシームレスな切り替えを可能とし,簡便かつ強拡大により正常形態精子の選別精度を上げ,紡錘体可視化によるICSI実施タイミングの統一化,紡錘体損傷を防ぐ安全性の高いICSIを可能とした.

胚盤胞の品質評価法としてGardner分類に代表される形態的な評価が一般的である.しかし,この評価法は培養士の主観によって左右され易い.当院では臨床妊娠率,生産率は胚の発生速度が速いほど,年齢が若いほど高くなることに着目し,患者の年齢と胚盤胞への発育速度という2つの客観的なパラメーターを指標とし,形態評価と組み合わせることで観察者による違いを起こり難くしている.

ARTラボ業務の多くはマンパワーによる手作業の為,培養士の技量が成績に大きく関係する.また同じ様に作業していても気付かないうちに変化し,時としてメンタルも変動要因となり得る.当院ではラボで得られた結果を基に成績管理「Result Control」を短期(日間),中期(週間),長期(月間)で実施しその変化を常に監視している.
問題が生じた場合早期発見,早期対策を取れるよう管理基準を設け,変動の要因がラボ全体によるものなのか,培養士個人によるものなのか,また患者要因によるものなのかなど原因を究明し対応に当たっている.

低刺激周期におけるラボワークでは,採卵から胚移植にいたる全ての段階で画一的な対応ではなく,患者1人1人,卵子1つ1つに対し適切な判断と確かな技術をもって対応することが必要である.
人は絶えず変化するものであり,その変化に気付き修正する手段が成績管理であり,それは患者に提供する医療技術の品質保証としても重要である.
ラボ業務におけるExcellent ARTとは誰が携わっても同じ結果,判断が得られる管理されたラボワークであると考える.

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