Papers and Abstracts

論文・講演抄録

培養士の国家資格化を目指して ~心理職の国家資格化の過程から~

平山 史朗

2017年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会 Workshop Excellent ART への挑戦

学会講師:平山 史朗

Abstract

2015 年9月19 日,国会で「公認心理師法」が成立し,2017年9月頃に施行されることが決定しました.
これにより,2018年から現任者向けの国家試験が開始され,わが国で初めて心理専門職の国家資格「公認心理師」が誕生することになります.
意外に知られていないことですが,実はわが国には心理職の国家資格はこれまで存在しなかったのです.
様々な学会や団体が認定資格を作っていますが,よく耳にされる「臨床心理士」や「産業カウンセラー」を含め,すべて民間資格なのです.
これだけ資格が乱立してしまうと,利用者に本当に有益な援助ができる専門家にたどり着くことが困難になってしまい,実際に被害が多く出ています.
また医療の世界では,国家資格がないということで医療保険の対象とならず,保険点数が取れないことから心理職の地位や待遇が非常に低く抑えられてきました.
資格取得要件に大学院修士の学歴が必要な臨床心理士の平均年収が400万円程度であるというと驚かれるでしょう.
先進国で心理専門職の国家資格(公的資格)が存在しないのは非常に珍しいのですが,わが国でも50年以上前から,専門職としての心理専門家の資格化は検討され続けてきました.しかしながら,主に医療界からの反対,心理学界内における対立などから資格化は紆余曲折の歴史をたどってきました.
法案が成立した現在でもなお,公認心理師の位置づけや専門性,養成システムをめぐって議論は続いています.

培養士の国家資格化において検討すべき事項について,私なりに想像してみました.
(1)監督官庁:厚生労働省(診療補助職として)or文部科学省(ES,iPS等の研究との関連)or農林水産省(畜産学,家畜人工授精師等との関連)
(2)資格の性質:業務独占or名称独占か
(3)受験資格と要件:検査技師と農学出身者,医師の受験は必要か
(4)養成課程:大学or大学院or専門学校,カリキュラム, 教員の資格,実習
(5)現任者の扱い:どこまでを現任者と認めるか,試験科目免除,経過措置,講習会
(6)質の担保:最低保証or高度専門職の指標,資格更新

配偶子操作・胚培養にかかわるスペシャリストである培養士の方々は,国家資格でないことによる様々な困難を抱えてこられ,それゆえ国家資格化に向けた動きが出てくるのは理解できることです.
本日は,心理職の国家資格化の流れと現状について概観し,培養士の国家資格に向けた動きにおいて考えるべきことについて私見を述べたいと思います.
培養士の国家資格化とその後の諸問題を検討する参考になればと思っております.

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