Papers and Abstracts

論文・講演抄録

生殖医療におけるPGSの意義

福田 愛作

2017年度 年次大会-講演抄録Symposium –PGS を考える–

学会講師:福田 愛作

Abstract

日本では2014年度に年間393,745周期のARTが実施され47,322 人が出生,年間総出生児の21 人に一人はARTによる妊娠である.日本は世界で最多のARTを実施している.
ちなみに,米国が人口(世界人口白書2016年版)3 億1,905 万人に対し日本は1 億2,706 万人と約3倍の人口を有するが,ART は169,602 周期であり,日本が米国の2.3倍のARTを実施している.
人口比で考えると米国の5.8倍となる.にもかかわらずARTによる出生児数は米国が68,791 人に対し日本が47,322 人(68.8%)と米国の7割以下の出生児数しかない.
日本のART効率は米国の8.4分の1以下である.この現状を如何にとらえるべきであろうか.
世界的にも不妊治療対象女性患者年齢は高齢化が進んでいるが,わが国ではその傾向が顕著である.
その証拠に40 ~ 41歳が治療を受けている患者の最も多い年齢層となっている.現在の不妊治療ではいずれの国においても高齢女性患者への対応に苦慮している.
日本と異なり海外では高齢患者に対し様々な選択肢が用意されている.米国では40歳で10%以上,45歳では50%以上のARTが提供卵子による.
またPGS は通常検査として行われている.ESHRE のPGD Consortium(2010)では5,732周期の48%(2,753)がPGD で52%(2,979)がPGS と,PGS がやや多い程度との印象を与えるが,総症例数(2,914)で見るとPGS が70%(2,063),PGDが30%(851)と圧倒的多数がPGSである.
PGD 症例の平均年齢が33 歳に対しPGS 症例が39歳であることより,高年齢女性におけるPGSの必要性を窺わせるものである.
海外ではARTの40%近くにPGSが実施されている(World IVF survey).日本の不妊患者は自己卵子により限界までARTを試み治療回数を重ねる.
これが日本のART大国世界一形成に貢献している.
日本のART件数増加の要因として次のようなことが挙げられる.画一的に単一胚移植実施が強く要求される.
多胎の減少には寄与しているが,胚移植回数の増加,不妊治療の長期化,結果として高齢患者ではさらに妊娠率を低下させる.
胚の選別はタイムラプスを含めすべて形態学的評価に頼っている.これは「運を天に任す」状態であり科学的選別とは言えない.
このような状態を補うべく2段階移植や様々の日本独自の取り組みが行われている.
しかし,いかなる手段を用いても染色体異常胚は着床しないか着床しても殆どが流産に終わる.卵子提供が許されず多くの卵子提供希望患者は海を渡っている.
日本においてPGS を取り入れることにより,すべてではないが様々な状態が改善されると考えられる.
日本でPGSが禁じられている間に,海外ではNGSによるPGSが通常検査として用いられるだけではなく,モザイク胚への対処など新しい課題への取り組みが始まり,海外のメジャー学会やジャーナルの多くの部分がPGS関連トピックに割かれており,日本人は完全に「蚊帳の外」状態である.
PGSのパイロットスタディーが本学会開催時には始まっていると思われるが,パイロットが終了してもまだ臨床研究が控えている.
既に多くの患者がNIPTを受け,異常が判明したケースには殆どが中絶手術を受けている.中絶手術は女性に肉体的精神的ダメージを与えるばかりでなく,将来の不妊症の要因ともなる.
中絶を伴う技術が容認され未然に防ぐ技術が禁止されるという予防医学的にも不合理な事態が起こっている.
日々患者と向き合う生殖医療臨床に従事する医師として,本シンポジウムでは「PGSの生殖医療における意義」を考えてみたい.

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