Papers and Abstracts

論文・講演抄録

冬期の精液持参中の温度低下を防ぐ工夫:フードコンテナの保温性について

学術集会 一般演題(口頭発表)

2018年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:岸田 拓磨・奥村 麻弥・戸内 宣子・菊地 裕幸・片桐 未希子・吉田 仁秋

仙台ARTクリニック

Abstract

目的:当院ではこれまでに患者が自宅等で採取し当院へ持参するまでに精液が低温に曝されることで、精子の運動性が低下することを示してきた。さらに、今回の予備研究として精液を入れた容器をタオルやアルミホイルで包むことによる保温効果を検討してきたが、それらの保温性能は低く、精子の運動性の低下を抑制することはできなかった。今回、フードコンテナを保温容器として用いることで、精液の保温性を高め、精子運動性を維持することができないか検討を行った。

方法:検討1)精液の持参方法を把握するため、自宅から当院までの移動時間と移動中の携帯方法についてアンケート調査を実施した。対象は2018年1月から2月に精液を持参した患者(100名)とした。
検討2)サーモス社製のフードコンテナの保温効果について調査した。精液検査後の同意が得られた余剰精液(12症例)を3等分し、5mlチューブに入れて以下の条件下で60分間保存した。(1)フードコンテナ内に入れ、冬期の外気温を想定して5℃に設定した冷蔵庫で保存(5℃コンテナ群)、(2)冷蔵庫でそのまま保存(5℃群)、(3)室温(約25℃)でそのまま保存(室温群)。保存後、精液温度、高速直進運動(20μm/秒)精子濃度(以後、PMSC)、運動精子濃度(MSC)、精子調整後の運動精子濃度(以後、調整MSC)を測定し、各群間で比較した。なお、精子調整は密度勾配遠心処理後、沈渣を精子洗浄液で洗浄し、最終調整量を0.2mlに濃縮することで実施した。

結果:検討1)当院までの移動時間は平均34.8分(最短:1分、最長:210分)であり、60分以内との回答が全体の90%を占めた。携帯方法は、「バッグ」が58.2%、「服の間やポケット」が41.8%であった。
検討2)60分保存後の平均精液温度は5℃コンテナ群が20.7℃、5℃群が11.4℃、室温群が25.2℃であった。5℃群は他の2群と比較してPMSCとMSC、調整MSCにおいて有意な低下が見られた。一方、5℃コンテナ群と室温群を比較した場合、PMSCとMSC、調整MSCに有意な差は見られなかった。

考察:保温容器としてフードコンテナを使用することで、アンケートで90%の患者が移動時間として回答した60分以内であれば、低温に曝しても精液中の温度低下を緩和し、精子の運動性を保持した状態で保存できることが示された。今後、患者に対して精液を保温することの重要性を啓蒙していきたい。

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