Papers and Abstracts

論文・講演抄録

新発想ファミリープランニングARTは女性活躍推進の旗手となる

安藤 寿夫

2018年度 年次大会-講演抄録Future perspective

学会講師:安藤 寿夫

Abstract

たとえば子どもの頃には3人くらい子どもがほしいなあと夢を描いていても、結婚する頃には2人くらいが現実的と妥協し、不妊という現実に直面すると先が見えなくなる。不妊症はカップルの病気であり、かつて治療手段は限られていた。しかし、この半世紀で飛躍的に発展してきた生殖補助医療(ART)により、世界中で800万人以上の新しい生命が誕生し、少なくとものべ1300万人以上の不妊症患者の希望がかなえられた。

我が国のART治療総周期数は世界一であり、人口比でもアメリカの4.6倍、ヨーロッパの1.7倍と断然トップであるが、高い医療水準の割には生産数で伸び悩んでいる。その主な要因は、対象カップルの高年齢化であり、仕事に打ち込みながら職場に迷惑をかけまいと必要最小限の休暇を取得して治療に励む女性に対して、比較的マイルドな調節卵巣刺激を経て周産期負荷の少ない単胚移植(SET)を選択する治療方法にある。

医療において治療とは、病気で健康が損なわれた状態をその時々で改善する行為である。しかし、最近は健康長寿をいかに得るかという中長期的戦略が医療界全体に醸成されつつある。ARTの特殊性は、不妊症における病態を改善していないことにある。特に生殖に与える加齢の進行や加齢に関連した生殖周産期疾患や生活習慣病が加わると、1人目がARTであれば2人目以降がARTとなる可能性は極めて高くなる。また、1人目の治療にどれだけの期間を費やしたかも影響し、1人目がARTでなかったとしても2人目以降でARTを必要とする可能性が30代後半以上では高まることになる。

生殖医療では時間軸は重要であり、最後の子どもを西暦何年何歳の時に産み終えるか、その時の夫の年齢は何歳か、更には子どもが人生の節目を迎えるときに家族の年齢は、生存や健康状態がどうなっているかに至るまで展望する時代が急速に訪れている。なるべく生殖医療に頼らず、生殖医療の中でもARTを必要とせず、各々のreproductive life planに沿った人生となれば理想である。しかし、人生の時間軸が少なからず受動的とならざるを得ないのが文明社会であり、少子化による労働力人口減少という危機的転換点を迎えている我が国において、女性活躍を社会が必要としている矛盾がフラストレーションを形成しているように感じる。

ファミリープラニングARTは、子どもを何人望み最後の子どもを健康に産み終えるのは何歳かを積極的にカップルに考えてもらい、その医学的妥当性を精査したうえで、逆算してそのカップルに対する生殖医療のトータルプランを提示して、最後の子どものためのARTを前倒しして今行うことも効果的な選択肢とする新発想である。女性への心理的身体的負荷を軽減し女性活躍を推進する社会的貢献の旗手として、凍結技術や胚評価技術を向上させてSETを推進してきた我が国の歴史的強みを生かしながら、ARTを行う我々医療者がファミリープラニングARTの具体的ストラテジーを確立していく新たな時代を迎えている。

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