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Embryoscopeを用いた胚培養と胚選択の新展開

加藤恵一

2018年度 年次大会-講演抄録 | ART Frontline

学会講師 : 加藤恵一

Abstract

近年、ART施設において胚培養へのタイムラプスインキュベーターの使用が増加し、その臨床的有用性が多く報告されている。タイムラプスインキュベーターの胚培養への使用は、臨床上大きな利点が二つある。

一つ目は胚をインキュベーターから取り出すことなく観察ができ、胚培養環境の恒常性の維持が可能という点にある。胚培養において、胚培養環境の恒常性の維持は非常に重要である。Swainら(2012)は、胚培養dishをインキュベーターから取り出し1分間静置した場合dish内のメディウムのpHは0.04低下し、その回復に40分間要したことを報告した。これは、胚観察のためにdishをインキュベーターから取り出した場合も同様と考えられ、pHの変化による胚培養環境の恒常性の破綻が胚発生能低下の要因となる可能性が示唆される。タイムラプスインキュベーターを用いることにより、恒常性の変化を起こさずに胚培養を継続することができ、胚発生能の向上が期待できる。当院においてもタイムラプスインキュベーターを用いることにより、良好胚盤胞発生率が有意に向上する結果が得られている。

二つ目は、胚の観察を継時的に行うことで、これまでの定時観察では、観察することができなかった事象が見えるようになったことである。媒精後一日目の受精確認を例に挙げた場合、雌雄前核出現から前核消失までの培養時間は約19時間であるが、これまでの定時観察では雌雄前核出現後約15-17時間目の1点しか観察しておらず、この時点で雌雄2前核が確認できれば、正常受精としていた。しかしながら、この前後に胚が異常な動態をきたす可能性があり、実際我々はタイムラプスインキュベーターによる胚観察により異常な動態を示す胚を観察することができた。また、媒精2日目および3日目における胚の分割を観察する際にも、タイムラプスインキュベーターによる胚観察を行うことで異常な動態を示す胚を確認した。その代表的な例として、early cleavage stageにて、一つの割球から3つもしくは4つの割球に分割するdirect cleavage (DC)や割球の融合が起こるreverse cleavage (RC)がある。DCおよびRCが起こった胚は、起こっていない胚に比べて分割期胚移植後の臨床成績が著しく低下することがすでに多くの施設から報告されており(Liu et al., 2014; Desai et al., 2014)、当院においても、同様の傾向が得られている。

タイムラプスインキュベーターから得られた情報を適切に判断することで、体外受精の臨床成績の向上が期待できる。さらに、得られた情報を詳細に解析することにより、胚選択におけるアルゴリズムの構築も可能となる。本講演では、当院のデータを交えながら、タイムラプスインキュベーターの有用性と今後の展望について述べたいと思う。

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