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着床前遺伝子診断の日産婦臨床研究の方向性

苛原 稔

2019年度 年次大会-講演抄録 | 我が国の生殖医療の課題と今後の方向性

学会講師 : 苛原 稔

Abstract

1998年,日本産科婦人科学会(日産婦)は「着床前診断に関する見解」を公表し,着床前遺伝子診断(PGT)を臨床研究(研究的要素の強い医療行為で有用性が明確でない医療)として実施することにした.対象を,
①重篤な遺伝性疾患を出産する可能性のある遺伝子ならびに染色体異常を保因する場合と,

②均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産,

に限定し, 日産婦倫理委員会内に審査小委員会を設置して1症例毎に妥当性の審査を行い,いわゆるPGT-Mを実施してきた.一方, 特に優生学的な課題に配慮してスクリーニング行為は禁止としてきた.20年間のPGT-Mでは約700症例が認可されているが, 臨床研究で行う見解を定め,1症例毎に審査を行う体制を維持するなど,倫理に配慮してきた日産婦の姿勢は,本邦でのPGTの定着に重要なステップであったと考えている.しかし,開始から20年が経過し,高年齢の挙児希望女性が増加し異数性染色体異常を原因とする流産が増加し, 習慣流産や高年齢女性でARTが反復不成功である例などで,染色体異数性のチェックを目的としたPGT-Aへの期待が高まっている.PGT-Aを臨床応用するには, この医療技術が日本社会に広く理解される環境整備が肝要である.そのためには, まず臨床的有用性を示すこと, またPGT-Aを行う上での医療体制の整備を検討すること,さらに, 技術に内在する倫理や社会的問題の議論を行うことが必要である.
そこで,臨床的有用性の検証と医療体制の整備を検討するため,日産婦はPGT-A特別研究を行ってきた.すなわち, 反復ART不成功例と原因不明習慣流産症例を対象として, アレイ CGH による PGT-A を, 比較対象試験により,妊娠予後を改善するかを検討項目にして,特別臨床試験を実施した.2019年3月には試験が終了し,現在成績をまとめて論文化中である.パイロット的RCT試験が終了したので, 日産婦は次のステップの臨床試験を計画している.対象は,①ART反復不成功例, ②反復流産例, ③構造異常や異数性による流産の既往例とし,3 ~ 5年程度を目安にして基本的にオープン試験で実施することにしている.早急に研究参加施設を選択するとともに,今回は, 結果の標準化を図るため検査受託施設も選択する予定である.検査施設には,内部精度管理とともに外部精度管理を定期的に行って,結果の標準化を担保することを考えている.

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