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Random start ovarian stimulation の新しい展開 〜 medical indication から social indication へ~

藤原敏博

2019年度 年次大会-講演抄録 | Symposium2 「ARTを受ける現代女性が抱える問題点とその解決策」①働く女性のための解決策 ②卵巣予備能低下(DOR)に対する解決策

学会講師 : 藤原敏博

Abstract

ART における最初のステップは, 調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation : COS)となる.これ
は卵胞の多発性かつ同調性発育を促して, 成熟卵数 を増加することにより治療周期あたりの妊娠率増加 を図ることが目的である.従来(そして現在も多くの 場合は),COSは月経や消退出血開始直後からスター トするのが通例であった.これはこの時期では卵胞及びホルモン(FSH,LH,E2,P4)の状態がリセットされており, 感覚的にもスタートを切るのに適していると考えられたからにほかならない.実際に幾つかのプロトコールが考案されているが, 複数個の成熟卵を獲得するという当初の目的は十分に達成できているといえる.
一方, 近年では悪性腫瘍を患った生殖年齢女性に対して, 卵子にダメージを与える化学療法や放射線
療法を開始する前に卵子あるいは卵巣組織を採取・凍結保存して, 原疾患の寛解後にこれらを利用して
妊娠を図る, いわゆる癌生殖医療が広く用いられるようになってきている.この際, 原疾患の治療開始まで時間的猶予の少ない血液ガン(白血病や悪性リンパ腫)では, 次の月経を待ったり消退出血を起こしたりすることなく直ちに採卵へ向かってスタートを切ることが求められる.これを可能としたのが排卵周期における時期にかかわらずCOSを開始するrandom start ovarian stimulation(RSOS)である.本法が画 期的であるのは, 既に発育卵胞があったり排卵後で黄体ホルモン分泌があったりする状態でも, 十分にCOS ならびに成熟卵子獲得が可能である点である.こうして癌生殖医療領域で応用されてきた RSOS であるが, これを通常不妊患者の ART において適用することも可能である.

適応として考えられるのが,仕事を持ち時間的に融通がききづらい患者である.受診して ART の適応があると診断されその施行に同意し, 即座に COS 開始を希望されるケースがある.この場合,RSOS を用いることにより患者のモチベーションを損なうことなく即座に採卵へ向けてのス タートを切ることができ, また少しでも早期に治療 を開始できる点からも, 年齢が高い患者群において も効率的であると考えられる.
このようにRSOSのmedical indication から social indication への適応拡大により, 時間的猶予の少ない 働く女性においても効率の良い治療の提供が可能と なると期待される.

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