Papers and Abstracts

論文・講演抄録

Euploid 時代の着床不全対策

中川 浩次

2020年度 年次大会-講演抄録Evening Seminar

学会講師:中川 浩次

Abstract

移植可能な胚を3回以上移植しても着床しない場合 は, 体外受精反復着床不全(repeated implantation failure; RIF)と定義され,その原因は多岐にわたると考えられる.明らかな原因が見つからなかった際には,我々は通常,胚の染色体異常が原因と,胚因子 をRIFの原因としてきた.

2020年に日本産科婦人科学会のPGT-A臨床研究が 開始され,RIF症例に対してeuploid胚を移植することが可能になった.このことは,医療者や患者自身 に“ほぼ着床する胚を移植している”つもりにさせる. しかし,日本産科婦人科学会のPGT-Aパイロット研究のデータからは,日本人の場合でも約30%の症例 は着床しないことが明らかとなった(Euploid胚の妊 娠率は70.8%).つまり,この3割の症例に対して, 説得力のある説明が求められるようになった.この ような時代だからこそ,RIFの原因としての胚以外の因子の抽出, 正しい評価と対策が求められてくる. 本講演では,好ましい着床環境を作るためのプロゲ ステロンの役割,RIFの原因とて注目されている慢性 子宮内膜炎(CE)の管理と対策,免疫学的着床不全の 対策について当院での取り組みを中心に述べることとする.

受精卵は移植免疫学的には”semi-allograft”であるため,移植される側(女性)の免疫担当細胞から攻撃 を受ける(拒絶反応を惹起する)可能性があることは 容易に想像がつく.しかし,通常はプロゲステロン の免疫抑制作用(免疫寛容)により,これらの拒絶反 応は減弱され,受精卵は子宮内膜に着床することが できる.黄体補充にプロゲステロン製剤を使用する ことで理想的な免疫寛容状態を惹起できると考える.

慢性子宮内膜炎(CE)も,確認しておくべき原因の一つである.我々の施設では,RIFの場合は子宮内膜組織検査でCEの有無をチェックしている.CD138 陽性細胞が10視野で5個以上認めれば,「陽性」と判 断し,5個以下になるまで,徹底的に抗生剤による治 療を実施する.

免疫学的拒絶のチェックは,以前から使用してい る1型ヘルパー T(Th1)細胞と2型ヘルパー T(Th2) 細胞の比(Th1/Th2比)を用いて行っており,Th1/ Th2比が基準値以上を示す症例に対して免疫抑制剤であるタクロリムスを用いて治療を行っている.最近までの成績では,症例あたりの妊娠率は47.2%であっ た.投与するタクロリムスの量に関しては, 既報 (AJRI 2015)の基準に従って1 〜 4mg/日の範囲で 行っているが,最近はタクロリムスの血中濃度を測定し管理している.タクロリムスは服用後速やかに 最高血中濃度に達し,さらに半減期が24時間を超え ているため,1日1回の投与で効果は十分に期待でき ると考えている.

上記以外は,VitDの低値,潜在性甲状腺機能低下,等を比較的頻度の多いRIFの原因として挙げることが でき,これらを補正することで多くのRIF症例を解決することが可能と考える.現在進行中の日本産科婦人科学会のPGT-A臨床研究が終了した後は,「Euploid 胚の移植」が当たり前の時代が到来する.妊娠しない 理由を胚のせいにできなくなることにより,我々臨床医にとっては,益々厳しい(いや燃える!)時代が もう目の前に迫っている.

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