Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-17 SMASを用いた質の高い精子の運動パラメーターによる指標の検討

学術集会 一般演題(口頭発表)

2020年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:久田 尚人・原田 義久・福永 恵美・前田 智世・笹川 ひより・池田 真妃・芝 令子・岡野 真一郎・絹谷 正之

絹谷産婦人科

Abstract

【背景】
体外受精( IVF) に用いる精子の評価は顕微鏡下でマクラー計算盤などを用い,算出した精子濃度や運動率を指標に行うことが一般的である.しかし,IVFにおいて高い受精率を予測するためには,精子濃度や運動率だけでなく,正確に精子の運動の質を評価する必要があると考えられ,それらの指標を明らかにすることは臨床上有用である.精子運動解析装置( Sperm Motility Analysis System: SMAS, ディテクト社) は精子の運動パラメーターを客観的に評価できる機器である.本研究ではSMASを用いてIVFにおける受精率と精子の運動パラメーターの関連性を評価することにより,質の高い精子の特徴とその指標を探索することを目的とした.
【対象と方法】
2018年1月から2020年2月までの間に当院で3個以上の卵子に対しIVFを行った301症例( 夫平均年齢37.2歳,妻平均年齢35.8歳) を対象とした.SMAS により各症例の精子の運動パラメーター (直線速度,直線性,曲線速度,曲線性,頭部振幅,平均速度) を密度勾配法による遠心処理後とIVF 直前の2回測定した.遠心処理した精子はSperm Washing Medium (Irvine) 中で約3時間室温で静置した後,IVFに用いた.
検討1では301症例を高受精率 (60% 以上) の229症例と低受精率(60% 未満) の72症例に分け,遠心処理後からIVF 直前までの精子運動パラメーターの継時的変化をそれぞれ解析した.検討2 では,高受精率群および低受精率群のIVF 直前の各運動パラメーターを比較することにより,質の高い精子の運動パラメーターの指標を探索した.
【結果】
高受精率群の精子は遠心処理後と比べIVF 直前において直線速度,直線性が有意に減少し,平均速度,曲線性が有意に増加した.一方,低受精率群では遠心処理後と比べIVF 直前において直線性が減少し,平均速度が増加したものの,高受精率群で見られた直線速度の減少および曲線性の増加は見られなかった.また,高受精率群と低受精率群のIVF 直前における運動パラメーターを比較したところ,高受精率群の曲線性は低受精率群と比べ有意に高かった (0.589 vs. 0.572;P<0. 01).
【結論】
高受精率群においてIVF 直前の精子の曲線性が低受精率群と比べ有意に高かったことから,精子の曲線性が質の高い精子の指標になることが明らかとなった.さらに,高受精率群における精子の運動性は,時間の経過に伴い直線運動性から曲線運動性に推移するが,低受精率群では曲線運動性が高まらず,直進運動性を有したままであることが明らかとなった.以上のことから,上記のような精子運動パラメーターの変化が,良好な精子の新たな基準となることが示唆された.

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