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二段階移植とSEET

後藤 栄

2021年度 年次大会-講演抄録 | シンピジウム「着床環境改善策を考える」

学会講師 : 後藤 栄

Abstract

二段階胚移植とSEET(子宮内膜刺激胚移植法:Stimulation of Endometrium –Embryo Transfer)は,ともに胚因子による子宮内膜の胚受容能の亢進による着床環境の改善を目的した移植方法である.二段階胚移植は1999 年に滋賀医科大学にて考案された.二段階胚移植は,着床周辺期の胚と子宮内膜はシグナル交換(クロストーク)をしており,胚は着床に向けて子宮内膜の局所環境を修飾していることを示すマウスを用いた基礎研究に基づいている.二段階胚移植ではDay2 かDay3 に初期胚を移植し,引き続きDay5に胚盤胞を移植する.初期胚にはクロストークにより子宮内膜の胚受容能を高める働きを期待し,その後に移植される胚盤胞がより高い確率で着床することを期待している.われわれの研究において,二段階胚移植は初期胚を2 個移植するよりも妊娠率は高く,胚盤胞を2個移植するよりは多胎率が低く,現在でも反復ART 不成功例に対して試みる価値のある移植方法である.

二段階胚移植の欠点である多胎の問題を克服する移植方法がSEET である.胚培養液中には子宮内膜胚受容能促進に関与する胚由来因子が存在することが報告されている.そこで,胚盤胞の移植に先立ち,胚培養液上清を子宮腔内に注入し,子宮内膜が着床に適した環境に修飾されることを期待した移植方法がSEET である.SEET に用いる胚培養液上清は,採卵後に胚盤胞まで培養した培養液50 μlを-20℃で凍結保存しておき,次周期以降でホルモン調節凍結融解胚盤胞移植周期に使用する.胚培養上清はDay2 またはDay3 に胚移植予定部位に胚移植と同様
の手技で注入する.我々の研究では,従来の胚盤胞移植よりも,SEET の方が妊娠率は有意に高率となった.また,胚を培養していない培養液を注入後に胚盤胞を移植した場合と比較しても妊娠率は高率となった.

子宮内膜胚受容能促進に関与する胚由来のクロストーク因子の一つとしてリゾフォスファチジン酸(LPA)が挙げられている.子宮内に発現するLysophosphatidicacid receptor 3(LPA3)が受精卵の着床に重要な役割を果たしていることが報告されているが,我々は,初期胚から胚盤胞まで培養した胚培養液中にLPA が存在することを報告した.近年では,ヒト胚盤胞は
Lipids, micr oRNA,蛋白を内包するエクソームを分泌していることが報告されている.エクソームは細胞間コミュニケーションを担う小胞で,胚盤胞から分泌されたエクソームが子宮内膜の遺伝子発現および胚受容能に影響を及ぼし,自身の着床をコントロールしていることが
報告されている.このように,胚培養液中には胚と子宮内膜のクロストークに関与する様々な物質が分泌されていることが,多くの論文で報告されるようになってきており,移植周期に胚培養上清を子宮に注入する有用性を支持するものと考えられる.

SEET では,二段階胚移植における初期胚の代わりに胚培養液上清を子宮に注入することにより,培養液中の胚由来因子により子宮内膜の分化誘導の促進が期待でき,かつ,移植胚数は胚盤胞1 個に制限することが可能となる.SEET はクロストークを利用しつつ多胎の問題を克服でき,妊娠率を上昇させることができる移植方法と考えられる.

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