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透明帯結合精子を用いた卵細胞膜を破らない授精法の試み

畠山将太

2021年度 年次大会-講演抄録 | 日本臨床エンブリオロジスト学会 「授精法のブレイクスルーを考える」

学会講師 : 畠山将太

Abstract

乏精子症や精子無力症などの男性因子がない場合,受精方法の第一選択は体外受精(IVF)である.しかしIVF を実施しても一つも受精卵の得られない完全受精障害がIVF 周期の約4% で起こるとの報告がある.完全受精障害があるかどうかはIVF を実施しなければ明らかとならないため,実際に完全受精障害が判明した時には患者への精神的また経済的な負担は非常に大きい.この問題を解決するため,IVF 後の早期に受精を判定し,未受精であった卵子に顕微授精(ICSI)を実施するレスキューICSI が報告された(Chen et al.,2003).当院では2009 年に開院して以来,IVF をおこなった7,504 周期のうち,1,493 周期でレスキューICSI を実施してきた.レスキューICSI はIVF での受精を試みながらも完全受精障害を避けることができるという利点がある反面,IVF 後の卵子にICSI を実施するため,人為的な多精子受精が起こる可能性や,採卵から時間が経過することで卵子のエイジングが進み,変性率が上昇するという問題点がある.そこで,卵細胞膜を破らずに卵子と精子の膜融合を利用した顕微授精が可能となれば,これらレスキューICSI の問題点が解決できるのではないかと考えた.

卵子と精子が膜融合するためには,精子の先体反応が起こっている必要がある.我々はIVF 後の透明帯に結合している精子に注目し,ICSI に用いるインジェクションピペットで直接回収して,その先体反応率を調べた結果,約98%(48/49)と非常に高率で先体反応を起こしていることを明らかにした.
IVF の3 時間後に,卵丘細胞と周囲に緩く付着している精子を剥離し,極体の状態を確認し,第一極体のみ放出されている卵子を精子と離した状態でさらに3 時間培養した.再度極体の数を確認し,第一極体のみ確認された卵子をIVF による精子侵入なしと判定した.対象卵の透明帯に結合している運動精子をインジェクションピペットで回収し,回収した精子をインジェクションピペット内に保持した状態で,インジェクションピペットを未受精卵の囲卵腔に差し込み,精子頭部を卵細胞膜の表面に押し当てた状態で約30 秒保持した.その後,精子を剥がさぬようゆっくりとインジェクションピペットを引き抜いた.この顕微授精法をAssisted sperm fusion insemination(ASFI)と名付け,従来のレスキューICSI と成績を比較した.

ASFI 後の卵子をタイムラプスインキュベーターで観察したところ,卵細胞膜表面に押し当てた精子が進入する様子が確認された.2PN 率は従来のレスキューICSI と比較して有意差は認められなかったが,ASFIでの変性率は0%でありレスキューICSI の4.3% と比べ,有意に低値であった(p = 0.046).
本発表では,ASFI とレスキューICSI の臨床成績の比較と,ASFI の実際の手技を動画を用いてお示ししたい.

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