Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-4 子宮内pH によるCD138免疫染色/子宮内フローラでの慢性子宮内膜炎診断の評価

学術集会 一般演題(口頭発表)

2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:遠藤 俊明1)・2)・3)・4)・5)・池田 詩子2)・本間 寛之3)・逸見 博文2)・木谷 保4)・久野 芳佳1)・馬場 剛1)・藤井 美穂5)・東口 篤司6)・山田 秀人7)・斎藤 豪1)

1) 札幌医科大学産婦人科, 2) 斗南病院生殖内分泌科, 3) さっぽろART クリニック,4) エナ麻生ART クリニック, 5) 時計台記念病院総合女性総合診療科, 6) 札幌エンドメトリウムリサーチ, 7) 手稲渓仁会病院産婦人科

Abstract

【目的】
子宮内乳酸菌が注目されているが,腟内乳酸菌と違って,ヒト子宮内乳酸菌と子宮内pHの関係の報告はほとんどない.動物の報告では着床期子宮内は酸性度が増すことや着床に関与するMMP(matrix metalloproteinase)は酸性環境下で活性化する.ヒト正常子宮内pH は6.0前後で弱酸性であり,慢性子宮内膜炎(CE)になるとpH が上昇することをわれわれが初めて報告した(Endo et al., ESHRE2020).ところで,本年の衝撃的な総説(Molina et al., Hum Reprod,2021)では,子宮内のマイクロバイオータの問題点について詳細に報告している.その一つに,経頸管的な検体採取では頸管や腟からのcontaminationの懸念があることを指摘している.今回dysbiosisとcontaminationを子宮内pH 測定で鑑別の試みもした.

【方法】
着床不全や不育症で受診した症例のうち67名に慢性子宮内膜炎の診断にはCD138免疫染色をLiu法(陽性>5.15個/10Xmm2)で評価し,フローラ検査は16S rRNAによった.子宮内pH 測定には食道内pH 測定用生体内pH 測定器を用いた.なお本研究は倫理委員会の承認と,患者の同意を得ている.

【結果】
67症例は「CD138陽性且つ乳酸菌<90%」のグループI,「CD138陽性且つ乳酸菌≧90%」のグループII,「CD138陰性且つ乳酸菌<90%」のグループIII,「CD138陰性且つ乳酸菌≧90%」のグループIVに分類した.グループIはいわゆるCEと考えられ全体の16%であっ
た.グループIVは非CEグループと考えられ42%だった.グループIIは13%で,非感染性慢性子宮内膜炎の可能性がある.グループIIIは27%で,dysbiosis やcontamination が含まれている可能性がある.それぞれのグループの子宮内pHのmeanはグループIは6.67,グループIVは6.06,グループIIは6.23,グループIIIは6.23であった.統計的にはpHはI>IV(p<0.01)であった.グループIIIの17例ではpHは6.0未満が6例で,6.7以上が5例であった.なお,妊娠
した21症例では,妊娠直前のpHのmeanは6.04であった.
【考察】
グループIVの非CEの子宮内は酸性であり,これは動物の報告と同様であった.一方CEとなり,乳酸菌が減少してpH が上昇したのがグループIと考えられ,今回の反復着床不全/不育症の16%に認められ,抗菌剤治療を要すると思われる.グループIIIはCD138 が陰性ではあるがCE のmeanよりもpH が高い集団と,非CE のmeanよりもpHが低い集団が存在し,dysbiosis やcontaminationを示している可能性を否定できず,今後の検討課題と思われた.

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