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培養環境における揮発性有機化合物(VOC)の影響

藤村佳子

2022年度 年次大会-講演抄録 | 日本臨床エンブリオロジスト学会「培養環境を考える」

学会講師 : 藤村佳子

Abstract

2021年に日本生殖医学会が刊行した生殖医療ガイドラインによると,採卵室・培養室の備えるべき条件として「培養室の大気質の最適化のためHEPAフィルターを設置し,または揮発性有機化合物(VOC)を制御すること」との記載がある.しかし現在,ART 施設におけるVOC 濃度の適正基準はなく,培養室内のVOC 濃度を低くすることが漠然と望まれているだけである.VOCは大気中に容易に揮発し,多量のVOCは人体において有害であると共に,人体への曝露限度をはるかに下回る量であったとしても,VOCから生じる粒子を吸引し続けると人体に有害であるとの報告がある(VOC について. 施設整備地域連絡協議会資料 2000,環境省. VOC 排出インベントリ作成書に関する調査業務報告書2019).また,ラボラトリー内においてVOC 濃度が高いと胚に悪影響があり,VOCを極力除去することで胚発生率や妊娠率の向上につながったという報告もある(R.Y.Khoudja et al. J.Reprod 2013,Nupur Agarwal et al. J.Reprod 2017).そして,我々胚培養士が普段ARTで使用しているプラスチック製品には細胞毒性があることが以前より指摘されているが,それら製品の多くが臨床的な胚培養目的で製造されている訳ではない(DeHaan. et al. 1971,Bavistor. et al. 1995).VOCが培養室にどのくらい存在し,ルーチンで使用しているプラスチック製品にはVOC がどのくらい残存しているのか,そしてVOC濃度が高く検出された製品を使用することでラボワークにどのような影響があるかについては,未だはっきりと解明されていないのが現状である.
そこで,我々は培養環境におけるVOC の影響を調べる為に,VOC Meter ver. 20(RI)を使用し,①培養室内のVOC 濃度の測定,②加湿・ドライインキュベーター内のVOC 濃度の測定,③消毒用エタノール噴霧時のインキュベーター内のVOC 残留濃度の変動,④5種の15mL遠心チューブ内のVOC残存量,⑤チューブ内のVOCが精子運動性に及ぼす影響について検討した.①②③については,培養室にVOCがどのくらい存在し,場所によって差があるのかを検討した.またVOCを発生させる要因と,その発生したVOCがインキュベーター内で培養している卵や胚に影響を及ぼさないように当院で取り組んでいることについて述べる.④については,普段使用している15mL 遠心チューブをメーカー,材質別でVOC 残存量を測定し,チューブの蓋を閉めた状態,蓋半開き,蓋なしで一定時間放置後に測定した場合と,チューブ内に培養液を分注し蓋を締めてからの時間経過におけるVOCの変動を報
告する.⑤では,各種チューブにおける精子運動解析システムSMAS(D1TECT)を用いた精子サバイバルテストの結果を解析する.
培養環境におけるVOC の影響を詳しく知ることで,ラボワークでのVOCを極力制御することが可能になり臨床成績の向上へとつなげていけると我々は考えている.

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