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生殖医学の基礎研究や最新技術から見える未来

大月純子

2022年度 年次大会-講演抄録 | シンポジウム1「多様性が求められる未来のARTについて」

学会講師 : 大月純子

Abstract

<生殖医学の基礎研究から見える未来>
卵成熟機構には未解明の部分が存在し,不妊原因が卵の異常によるものである場合には現在の医療では治療できないことが多い.ARTを何回も行い妊娠に至らない患者が少なくない現状にて,生殖医学の基礎研究の殆どは治療に繋げるための研究であるが,治療を終えるための研究も必要であると考えている.
卵成熟過程にはさまざまな遺伝子や分子が関与しており,これらの関連する遺伝子の異常が不妊を惹起することが近年の研究により明らかになりつつある.変異原性薬剤であるENU(N-ethyl N-nitrosourea)を用いて遺伝子変異を起こしたマウスのうち,減数分裂中の交叉異常のために不妊を呈し,RNF212 が原因遺伝子であることが判明しているrepro57 雄マウスでは,精子細胞から精子が形成されず不妊となることが報告されている1).一方,雌では卵形成・排卵・受精に異常は見られないが,MII 期卵母細胞では姉妹染色体の動原体が不対または距離が離れている頻度が高いことから,染色体分離異常が生じ,多くの胚発育が4 細胞から8細胞期で停止することが判明した(論文執筆中).よってrepro57 雌マウスと同様な表現型を有する患者や,多前核,卵成熟異常など減数分裂時の異常を呈するなど,遺伝子変異を疑う患者を対象に,RNF212 遺伝子をはじめとする遺伝子変異に起因する不妊原因を明らかにすることは,不妊治療へ新しい展開をもたらすと期待される.我々は現在これらの患者を対象に遺伝子変異を網羅的に解析し,未知の不妊原因究明を目指している(科研20K09620).現時点において,体外受精3 回以上反復不成功患者25 名と自然妊娠により出産した10 名を対象とした網羅的な遺伝子解析が完了し,タンパク質合成に重大な悪影響を与える可能性があるフレームシフト変異,スプライス部位変異等のうち自然妊娠出産者に存在しない遺伝子変異をふるいにかけ,7つの遺伝子変異が抽出された.本講演ではこれらの遺伝子変異のうち,新たな不妊原因となりうることが推測される変異について文献考察を含めて解説する.
<生殖医学の最新技術から見える未来>
生殖医学の発展には動物実験を用いた最新技術の開発が著しい一方,ヒト特異的な現象を用いた最新技術の開発は困難となる.我々は2007年にヒト卵母細胞以外には見られない減数分裂時の染色体凝集塊による細胞質置換法(核移植)を報告したが2),動物実験ができないこと,ヒト卵の受精実験が国の倫理指針で認められていなかったことから胚発生能の検証が不可能であった.マウス卵母細胞では通常起こらない染色体凝集塊がcAMPを上昇させる薬剤であるIBMXの高濃度添加培養液で培養することにより染色体凝集が可逆的に起こることを見出し,動物実験による染色体凝集塊置換法の道が開けた.ミトコンドリア病患者をはじめ,卵細胞質置換を必要とする患者の未来へと繋げたい.

参考文献
1) Fujiwara Y, Matsumoto H, Akiyama K, Srivastava A,Chikushi M , A nn Handel M , Kunieda T. A n ENU-induced mutation in the mouse Rnf212 gene is associated with male
meiotic failure and infertility. Reproduction. 2015; 149:67-74.PMID: 25342176
2) Otsuki J, Nagai Y, Sankai T. Aggregated chromosomes transfer in human oocytes. Reprod Biomed Online. 2014; 28:401-4. PMID: 24316045

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