がん・生殖医療最前線
2017年度 年次大会-講演抄録|Current Topics
学会講師:鈴木 直
Abstract
近年,がんの診断および集学的治療の進歩の結果,小児,思春期・若年(AYA)がん患者におけるQOL(がんサバイバーシップ)の向上に関心が高まっている.
これまでは,生殖可能年齢の若年がん患者にとって,「子どもをもてない」また「妊孕性や生殖機能の喪失」という事実を,がん治療終了後に初めて知り,またその現実を受け入れざるを得ない状況が少なくなかった.
がんによる生命の危機と妊孕性喪失の危機に直面している小児,AYAがん患者にとって,妊孕性温存に関する正確な情報を的確なタイミングで得ることができ,さらに安全な妊孕性温存療法の実践は大きな希望となり得る.
本邦においては,小児,AYAがん患者に対する「がん・生殖医療の普及と適格な医療連携構築を志向し,2012年11月に特定非営利活動法人日本・がん生殖医療研究(現,日本・がん生殖医療学会:JSFP)が設立された.
一方,本邦のがん対策は1984年以降,10年毎に戦略の改訂のもとに施策が実施されてきた.
そして2007年4月には,がん対策をより一層推進するため,がん対策基本法が施行され,本法に基づきがん対策の推進を図る目的として「がん対策推進基本計画」が策定された.
2015年6月の,がん対策協議会による「がん対策推進基本計画に対する中間評価報告書の中の研究班患者調査では,納得のいく治療の選択ができたがん患者の割合は84.5%,妊孕性温存に関する情報が提供された40歳未満のがん患者は38.1%に留まっており,患者への十分な情報提供と治療選択のための体制整備が急務となっている.
同時に発表された「今後のがん対策の方向性」では,今後推進が必要な事項として,「小児期,AYA世代,壮年期,高齢期等のライフステージに応じたがん対策」が挙げられており,本項では,「(前略)AYA世代のがんの治療にあたっては,倫理面に配慮しつつ,生殖機能温存に関する正確な情報提供を患者・家族に対して行うよう,医療従事者に周知を図る必要がある」と指摘し,早急な対策を講じるとともに,次期がん対策推進基本計画作成にあたって考慮すべきであると提言している.
そして,現在策定中の第3期がん対策推進基本計画素案には,がん・生殖医療の適切な体制の構築が取り組むべき施策として明記されるに至っている.本講演では,がん・生殖医療最前線と題して,本邦における本領域の取り組みや研究の最新トピックスを概説させて頂く.