月経困難症に対するホルモン治療 ~オフィスギネコロジーと不妊クリニックを繋ぐために~
2020年度 年次大会-講演抄録|Luncheon Seminar
学会講師:中川 浩次
Abstract
近年,女性のヘルスケアへの注目とともに女性医療は急速に進歩している. 当クリニックは,大阪の交通的要所となる梅田か ら徒歩圏内にあり,更年期や月経困難症,性感染症, 低用量経口避妊薬等の扱いなどに特化した,オフィ スギネコロジーといわれている領域にあたる.患者 層は13-60歳と幅は広く,婦人科領域の窓口になるクリニックと考える.中でも,この数年急増しているのが月経困難症やPMS,不順等,月経にまつわるトラブルの受診である.これらの症状には子宮内膜 症や子宮筋腫等の疾患が背景に潜んでいることも多 く,医療介入初期の診断が非常に重要である.当クリニックは4名の内視鏡外科医を有し,それら妊孕性にかかわる疾患の薬物療法及び手術時期の相談に強みがあるのが特徴となる.
月経困難症や子宮内膜症・子宮筋腫に対する治療は急速に進歩し,LEP製剤,ジエノゲスト2mg投与 (1mg錠×2 /日),GnRH製剤,レルゴニクス錠,レボノルゲストレルキット等の様々な治療薬が使用さ れるようになった.一番大きな変化は,器質性月経困難症に対する,『婦人科特定疾患治療管理料』の加算が可能になったことである.我々は,患者年齢や生活背景などを考慮しつつ薬剤選択(OC / LEPの種類選択等)を行う.しかし,月経困難症に対するこれまでの薬剤には,薬物の禁忌・年齢や使用期間の制限等多くの制約があり,薬物選択に悩む症例も存在 した.
今回, ジエノゲスト1mg投与(0.5㎎錠×2 /日) の認可(2020年5月)で,さらに月経困難症に対する治療の幅が広がった.薬剤の特徴として,従来のジ エノゲスト2㎎投与と比べ血中のエストラジオール濃 度が80-100pg / ml程度維持され,若年者に使用しやすくなったことがある.また, 高血圧や片頭痛・ 50歳以上等OC / LEP製剤の禁忌であった多くの症例に対し治療が可能になった.価格的にもLEP先発製剤と大差はなく使えることもメリットと思われる. 当院では,2020年8月15日現在69名に処方(平均 35.6歳:20-55歳)し, ①前兆を伴う片頭痛26名, ②年齢を考慮した者20名がLEP製剤を使用しなかっ た理由として多く,その他にも高血圧や血栓素因保因者などLEP禁忌症例への投与を認めた.投与期間 が数か月のため薬効への効果の報告は難しいものの, 使用している印象としては治験データと概ね差異は ない.
しかし,我々は疾患コントロールに関しては経験 を有するが,不妊治療に関する経験は乏しい.その為, 妊娠を考える際には適切な時期に専門施設への紹介 を要することが多くなり,我々クリニックと不妊専門機関とのより密な連携が必要と考える.子宮内膜症や子宮筋腫の手術相談に関しては不妊治療の進捗状況を踏まえ適切に相談できる環境を築き,手術施設とも連携をできればと考えている. 何よりも,子宮内膜症や子宮筋腫は妊娠・出産後 も継続管理が必要であり,産後の管理を含めた医療 施設間の連携を築けることを願う.