納得して不妊治療を受ける共有意思決定プロセスへの看護支援
2023年度 年次大会-講演抄録|シンポジウム1:患者様の治療を中断させないサポート
学会講師:藤島 由美子
Abstract
不妊治療は結果の不確かさと時間的制限、カップルでの治療という特徴があり、身体的・心理的・社会的にも大きな負担がある。今回、当院での患者への共有意志決定支援の実際を紹介し、看護の役割と課題について報告する。
当院の特徴は、患者・カップルの背景や治療歴などを考慮し、希望などを取り入れながら、最新のエビデンスに基づいた治療を医療チームで共有し診療している。また診療後に看護師が原則、すべての患者に対応して不明点を解消し、不安をできる限り軽減し、安心して治療が受けられる体制づくりに力を注いでいる。さらに当院通院女性の約9割が就業者であり、仕事と治療継続の両立ができる体制を整えるため16時30分から20時迄の夜間診療にて平均60名の患者を受け入れ、看護師はスケジュール調整相談なども積極的に行っている。
初診カップルへの適切なケアの提供は、通院中断ケースを減少させることにつながる(實崎、2021)ことから、筆者はカップルが納得して不妊治療を受けるプロセスへの看護支援として、①初診時から信頼関係を構築、②最新の正確な情報提供、③理解・納得して進めるよう継続的な支援、④患者の心に寄り添う看護を実践してきた。具体的には初診時には看護師が問診を取り、今までの経過や希望を聞き頑張った努力を労い、一般的な検査や治療法や費用などについて説明し、現在の思いの傾聴をすることで関係性を構築し、仕事と不妊治療の両立の相談など、心理・社会面での支援も行ってきた。診察後の看護師対応により、「治療はなかなかうまくいかないけど、話を聞いてもらってすっきりした」「疑問点が解決した」など、医師には相談できない些細な事項であっても自身の価値観に基づいた相談ができたことで、納得して進む意志決定支援につながっている。また妻が46歳以上の場合は、初診日前に不妊症看護認定看護師(CN)の個別看護師面談を行い、挙児希望の思いや今の状況をゆっくり話せる時間と空間を共有し、治療法や生産率、高年齢妊娠と出産の合併症などの情報提供後、選択肢の支援を共有意思決定してきた。その結果、回数を決めての治療選択される方や治療をしないと選択される方もおられ、自身で納得した道を進む機会になっている。このように患者中心の看護支援を実践してきたが、夜間診療などでは患者数が多いため看護業務が多忙となり、患者の悩みにタイムリーに関わることができないなどのジレンマもある。今後は心理面を支援する資料の作成や書籍・パンフレットの紹介などリソースの充実によって看護支援の補完ができることを予定している。
筆者は不妊症看護CNとして、院長とスタッフの協力のもと、前述した治療過程での看護展開ができている。2022年現在、全国で172名の不妊症看護CNが活動しているが、現在は教育課程が休講状態である。来年度から不妊症だけにとどまらず生殖領域全般の生殖看護認定看護師教育施設として英ウィメンズクリニック・大阪信愛学院大学生殖看護認定看護師教育研修センターの開講準備が進んでいる。生殖医療の専門的知識を持ち生殖看護実践能力が高い生殖看護CNが増え、高度看護実践と看護職への指導・相談が実践できるCNが養成されることで、生殖看護の質が向上し、支援にいかせることを切望している。