Papers and Abstracts

論文・講演抄録

不妊と不育 —免疫学的トレランスの破綻からみた着床不全と流産—

齋藤 滋

2016年度 年次大会-講演抄録Epoch making lecture

学会講師:齋藤 滋

Abstract

胎児は母体にとって異物であるため,免疫学的トレランスがなければ拒絶されてしまう.着床時には,胚の周囲に多くの母体リンパ球が集簇しているため,胎児は母体に認識されていると考えられる.事実,ヒトにおいても絨毛外トロホブラスト上に発現する父親由来HLA-C抗原数が多い程,脱落膜中の活性化T細胞が多くなることより,胎児抗原は確実に母体に認識されている.マウスでは着床時に免疫学的トレランスを誘導する制御性T細胞(Treg)を除去すると,着床不全となる.ヒトにおいては原因不明不妊症例では子宮内膜中のTreg のmaster遺伝子であるFoxp3 mRNA発現が低下していることが報告されている.まTh1/Th2比の高い着床不全例に免疫抑制剤であるタクロリムスを投与することで,良好な生児獲得率が得られることも判明してきている.

妊娠初期にTreg細胞が子宮に集簇する機序として,精漿が重要であることをS. Robertsonや我々は報告している.我々はさらに精漿の暴露がTreg を誘導するtolerogenic DC(トレロジェニック樹状細胞)を誘導することを見い出している.さらにTregを妊娠初期に除去すると,マウスでは流産が生じるが,ヒト流産で胎児染色体正常例では脱落膜中のTregが減少しており,活性化T細胞が増加していることを見い出した.これらの事実はTreg細胞の誘導不全によりヒトでも着床不全や流産が生じることを示している.即ち免疫をターゲットとした新しい治療法の可能性が考えられる.

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