Papers and Abstracts

論文・講演抄録

当院における Piezo-ICSI の変遷について

古橋 孝祐

2020年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会「Piezo-ICSI の今後の展開と有用性」

学会講師:古橋 孝祐

Abstract

胚培養士が習得すべき技術のなかで,顕微授精手 技は最も高度な技術の一つであることは議論の余地の無いことであろう.顕微授精手技の巧拙によって 患者は得られる受精卵の数が減ることもあれば,増えることもあるため,その技術の習得は非常に重要である.当院では安定した高い受精率かつ,低い変性率を達成できる顕微授精手技を習得できるよう教 育プログラムを構築しており,このプログラムに基づいてトレーニングを行っている.2000年の開院以来, 当院において顕微授精操作は,Conventional ICSI を第 一 選 択としてきたが,1995 年にYanagimachiらによってマウスにおけるPiezo-ICSI の有用性が報告され,また,1998年には,Yanagida らによってPiezo-ICSIの有用性がヒトにおいても報 告された.その後,2013年に平岡らによってUltrathin Micropipetteを用いたPiezo-ICSIの有用性が報告されたことを受けて, 当院でもPiezo-ICSIの有用性を検討した.その結果,42歳以上の高齢患者においてはPiezo-ICSIで有意に高い胚盤胞発生率を認め, この結果は学会等でも発表してきた.この検討以降, 当院では老化した卵子においてPiezo-ICSIがより有 効であろうと考え,2016年7月より,40歳以上の患者における顕微授精は全例Piezo-ICSIを行うとい う治療方針としたが,期待したほどの受精率及び胚 盤胞発生率の向上が認められず,2017年からは再び Conventional ICSIを第一選択に戻したという経緯が ある.この原因として, 当ラボでは Conventional ICSIを迅速に行う技術を習得することを第一の目標にしていたため,Piezo-ICSIに必要な精緻で時間の かかるセッティングに違和感のある施行者もあり, その結果施行者間に技術のバラツキが生じたため, 結果的に成績に負の影響があったと考えられた.

その後,Piezo-ICSIの再評価を行う際に技術の見 直しをゼロから行い,技術のバラツキが影響しない ようにするため,手技者は熟練技術者一人に固定し 検討した結果,35歳以上症例において,有意な培養 成績の向上を認めたため, 各手技者にPiezo-ICSIの 技術を再教育し,2019年1月より40歳以上患者の 顕微授精は全例Piezo-ICSIを行うという治療方針に 再び変更した結果,前年(2018年)と比較し受精率・ 胚盤胞発生率などが有意に上昇した.このように Piezo-ICSIといってもその技術が未熟であれば, 良好な成績に繋げることは出来ないが, 安定したPiezo-ICSI技術を確立さえすれば, 胚発育の向上に寄与することが示唆された.本講演では当院におけ るPiezo-ICSIの変遷について言及していきたい.

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