Papers and Abstracts

論文・講演抄録

当院におけるMD-TESEおよびROSIの実際

竹本 洋一

2019年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会「よくわかる!精巣内精子(細胞)の採取と選別〜工夫,コツ,こだわり〜」

学会講師:竹本 洋一

Abstract

MD-TESE における培養士の役割は非常に重要と思われる.採取された精細管を処理していかに早く精子を見つけることが出来るか, 回収された精子をどのようにして凍結保存するか, 精子が見つからなければ次に何をすべきかなど迅速な対応が要求さる.今回, 当院における MD-TESE,MESA,ROSIの実際について,またROSIに関する取り組みについて発表する.
1.MD-TESE,MESA
閉塞性無精子症症例の場合, 精巣上体精子回収法(MESA)を行う.MESA によって回収された精子は精子数も運動性も TESE とは比較にならないほど良好で, 凍結方法も射出精子と同様に行うことが可能で簡便である.自家製のガラス製の極細針で怒張した精巣上体管を穿刺し精子を回収し凍結保存する.非閉塞性無精子症症例の場合,MD-TESEを行う 術者により手術用顕微鏡下で太く蛇行があり良好な精細管を片側または両側の精巣から10 ~ 15か所採取し, 直ちに 10%SPS-HTF 培養液ドロップ内にて 27G針で精細管をほぐし倒立顕微鏡下で精子を検索する.精子が見つかった場合, 運動性及び形態, 精子数を確認し受精可能な精子を回収の後, クライオトップを用いた極少数精子凍結法にて凍結保存を行う.精子が見つからなかった場合, コラゲナーゼおよびトリプシンドロップにて精細管をほぐし精子細胞の検索を行う.
ここで重要な事は, 精子細胞と他の細胞, 特に精祖細胞との鑑別である.十分なトレーニングを積むことで精子細胞の鑑別は可能となるので MD-TESE に携わる培養士は鑑別技術を身に着けていただきた いと思う.採取した組織は酵素処理を施し, 精細管内細胞を分離回収し細胞浮遊液を作製する.処理後の細胞の状態を確認し, エチレングリコールとスクロースを主成分とした凍結媒液を加えてプログラムフリーザーにて緩慢凍結法により凍結する.

2.ROSI
凍結しておいた精子細胞を 33℃の温湯で急速融解 し洗浄後ROSIドロップにペレットを注入し精子細胞 を回収してROSIを行う.
精子細胞の成熟度により,Sa ~ Sb2であれば ROSI の際に卵子活性化が必要である.成熟度が Sc ~ Sdと 進んでいる場合は活性化を必要としない.卵子活性化 法には種々の方法があるが当院では電気刺激による卵 子活性化を行っている.活性化装置はNEPAGENE社 のLF-201を用いて,AC5V10secDC120V/mm99μsec の条件下でマニトールを主成分とする活性化液にて電 気パルスを1回行う.現在ROSI後の受精率,胚発生率 向上のための検討を行っているのでその結果について も報告したい.
3.まとめ
1)閉塞性無精子症が疑われる場合は MESA を優先すべきと考えている.TESE によって回収された精子と比べ精子数, 運動性, 成熟度共に射出精子と同等レベルの精子であると考えられるからである.

2)TESE によって回収された精子の凍結保存はその凍結法により融解後の精子回収率, 運動性が大きく異なるので重要と考えられる.
3)精子が見つからなくても精子細胞が見つかればROSI の技術により子供を授かることができるが,妊娠率は低く流産率が高い傾向があるので更なる技術向上に取り組んでいる.

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