Papers and Abstracts

論文・講演抄録

再穿刺ICSI 法で救済された卵子 の生体外内における発生能および 出生児の評価

学術集会 一般演題(口頭発表)

2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:岩山 広・石山 舞・下田 美怜・中谷 絢乃・林 篤史・山下 正紀

山下レディースクリニック

Abstract

【目的】

卵細胞膜の低伸展性がもたらすICSI 後の変性死に対抗する有力な手法は長らく存在していなかった.我々は初回穿刺で低伸展を示した場合,あえて精子を注入せずに複数回の再穿刺を試み,より高伸展性を示した部位から精子注入することで卵子生存率を劇的に改善させる
手法を考案した.しかし,この再穿刺法が発生に及ぼす影響あるいは由来する出生児についての知見は乏しい.そこで,本研究では,再穿刺法と生体外内における発生能との関係を評価すること,および,判明している出生児の情報を開示することを目的とした.

【方法】

ICSI 法の分類は,伸展性と穿刺回数より“低伸展/単穿刺”,“低伸展/ 再穿刺”および“高伸展/ 単穿刺”とした.体外発生能において,ICSI 後に生存した卵子の胚盤胞発生(n=2114/4431)とICSI 法,母体年齢(〜34,35 ~ 39,40 ~歳),ICSI 実施者(4名)および卵子成熟度(MII,遅延MII)との関係を評価した.体内発生能において,凍結胚盤胞の継続妊娠(n=172/579)とICSI 法,母体年齢,ICSI 実施者,グレード(良好,不良)および凍結時期(Day 5, 6)との関係を評価した.多変量解析を用いて,調整済オッズ比(Adjusted Odds Ratio: AOR)および95% 信頼区間(95% Confidence Interval: CI)が1より大きく,
p<0.05となる要因を危険因子であると判定した.

【結果】

胚盤胞発生に対して,ICSI法“低伸展/ 再穿刺”はネガティブ要因として検出されず,母体年齢“35 ~ 39歳”(AOR=1.23, 95% CI: 1.07-1.42),“40~歳”(AOR=1.56, 95% CI: 1.33-1.82)および“遅延MII”(AOR=4.15,95% CI: 2.46-7.00)が危険因子として検出された.継続妊娠に対しても,ICSI法“低伸展/再穿刺”はネガティブ要因としては検出されず,母体年齢“40~歳”(AOR=4.61, 95% CI: 2.61-8.14),グレード“不良”(AOR=1.51,95% CI: 1.03-2.22)および凍結時期“Day 6”(AOR=1.96, 95% CI: 1.05-3.69)が危険因子として検出された.また,再穿刺法に由来する児(n=8)について先天異常は認められていない.

【考察】

低伸展型卵子に対する再穿刺という操作は非常に大きなダメージを伴うイメージがあった.しかし,生存率を改善しかつ胚発生能や(今のところ)産児正常性を損なわない結果を考慮すると,低伸展性を示した卵子には積極的に試みるべきであると思われた.そして,再穿刺ICSI法は,卵細胞膜の低伸展性がもたらすICSI後の変性死に対抗する常法となる可能性が示された.

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