Papers and Abstracts

論文・講演抄録

当院における妊孕性温存目的の精 子凍結の現状について

学術集会 一般演題(口頭発表)

2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:中村 祐介・五十嵐 秀樹・京野 廣一

京野アートクリニック

Abstract

【目的】

近年,医療の発達によりがんを克服する患者(がんサバイバー)が増加してきている.一方,生殖可能年齢の患者に対する抗がん剤使用および放射線照射は生殖機能を著しく低下させ,がん治療後の妊孕性の低下と消失が問題となっている.しかし,妊孕性温存目的での精子凍結は広く認知されず,限られた施設のみで行われているのが現状である.今回我々は,当院で妊孕性温存目的に精子凍結を行った症例について検討を行った.

【方法】

1997年1月から2016年6月までに当院で妊孕性温存を目的に精子凍結を行った173症例を対象とした.来院時の患者の状況,がん治療終結後の不妊治療の実際,凍結精子の保存の状況などについて検討を行った.

【結果】

精子凍結希望者の年齢は平均30.1±8.1歳(中央値29歳,15-55歳)であった.来院時の患者の状況は以下の通りであった.61名(35.3%)が既婚,112名(64.7%)が未婚であった.化学療法前が119名(68.8%),化学療法後が40名(23. 1%),全身放射線治療前(骨髄移植前)が9名(5. 2%),その他が5名(2.9%)だった.がんの種類別では精巣腫瘍 41.0%,白血病23.1%,悪性リンパ腫 6.9%,骨髄異形成 4.6%,直腸がん・大腸がん3.5%,縦隔腫瘍2.9%,前立腺がん 2.3%,その他 15.7%であった.がん治療終結後の不妊治療は,当院でのART が26症例に行われ,そのうち19症例(73.1%)が妊娠に至った.妊娠症例の内訳は妊孕性温存で凍結した精子を使用した症例が8症例,化学療法後の新鮮射出精子を使用が7症例,化学療法後にMicro TESEによる回収精子を使用が3症例,その他1症例(詳細不明)であった.一方,自然妊娠は1症例のみであった.現在の精子凍結状況は凍結継続78症例(45.1%),他院へ搬送1例,廃棄94症例(54.3%)となっている.廃棄理由の内訳は死亡6症例,患者からの廃棄申請のあった症例が18症例,凍結期限が切れた症例が70症例であった.がん治療終結後に生児を獲得した症例が12症例,精液所見の回復がみられた症例が10症例,無精子症となった症例が9症例みられた.

【考察】

がん治療は使用する薬剤や放射線照射などの治療方法によって,永続的な無精子症となる可能性がある.治療終結後に無精子症または乏精子症,精子無力症となる症例も見られ,がん治療終結後の妊娠症例の半数が妊孕性温存で凍結した精子を用いたARTによるものであった.がん治療終結後の患者のQOLの見地から,がん治療前の妊孕性温存目的の精
子凍結は必須であると考えられる.

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