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新しい医療を切り開くMuse細胞の可能性

出澤真里

2018年度 年次大会-講演抄録 | 特別講演

学会講師 : 出澤真里

Abstract

我々の体は日々微細な修復がなされているため組織が維持され恒常性も保たれているが、その機構に関してはよくわかっていない。

発見当初、Muse細胞は骨髄や皮膚に存在する腫瘍性の無い多能性幹細胞として位置付けられた。安全性の懸念が低く、アクセスしやすい組織から採取でき、また多様な細胞に分化する多能性を持つことから、再生医療への実用化が期待された。しかし、国内外で研究が進むうちに、この細胞の本当の重要性が明らかになってきた。それは我々の体の修復を日々行っている「生体内修復幹細胞」である、ということである。

Muse細胞は骨髄から血液に少しずつ動員され、個人差はあるものの一定の割合で血液中を巡り、各臓器に供給される。供給先の組織で傷害を受けた細胞に置き換わることによって機能的細胞を補い、様々な臓器の修復を行っている。実際、脳梗塞や心筋梗塞の患者では、発症後24時間の末梢血中のMuse細胞数が平常時の数十倍にも増加し、急性期においてMuse細胞の動員数が高い患者ほど、慢性期における治癒傾向と相関することが示唆されている。しかし、基礎疾患があってMuse細胞の活性が落ちていたり、動員数が足りない場合には、自前の細胞だけでは修復は追いつかない。ここに再生医療として健常なドナーから採取したMuse細胞を補充する意味がある。

Muse細胞は傷害組織から出される警報シグナルSphingosine-1-phosphateに対する受容体を持つ幹細胞である。従って、静脈に投与すると何処が傷害部位かを認識することができ、集積する。そして、組織に応じた細胞に自発的に分化をし、最終的に組織の一員となって組み込まれ、修復をする。また、免疫抑制作用を持つために、他者の細胞を投与しても免疫拒絶を免れる。従って、ドナー細胞の活用が可能である。

これらの特性から、Muse細胞は「点滴による再生医療」を可能とする。再生医療には「夢はあるがコストと時間がかかるハードルの高い医療」というイメージがある。しかし、点滴で再生医療が可能になればどうだろうか。一般普及をすることができ、さらには今の医療を大きく変えることができるであろう。何より、生体に備わる修復機構を最大限に活用する医療は安全性に優れ、「自然の理に叶った」治療を可能とする。自然の理にかなった細胞はうまく生体に適合できる。これは「修復医療」という新しい考え方であり、次世代の治療概念を提示できると考えている。

 

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