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生殖医療の未来を考える―生殖医学の進歩の中で―

吉村泰典

2019年度 年次大会-講演抄録 | 我が国の生殖医療の課題と今後の方向性

学会講師 : 吉村泰典

Abstract

近年の生殖医学の進歩には目覚ましいものがあり, 生殖現象の解明のみならず,ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されている.現代の生殖医学の発展は遺伝学の進歩に負うところが大きい.遺伝学は生命情報の継承と個体間の多様性を研究する生物学の中心的な学問分野であり,人類遺伝学は人間の理解を基本理念として,遺伝学の立場から科学,医療,社会への貢献を通して,より良い人類の未来を目指す学問分野である.遺伝子改変動物を用いれば,培養細胞や試験管内ではみられないダイナミックな高次生命現象を個体レベルで観察・解析することができる.特にヒトと同じ哺乳類に属するマウスは,体外受精や胚移植などの生殖補助技術が早くから確立されたこともあり,古くから遺伝子改変マウスがつくられている.これらは,遺伝子機能解析ツールとしてだけでなく,ヒト疾患の病態モデルとして生命科学や医学研究の礎を担っている. ゲノム編集は遺伝情報の書き換えを容易にしてきた. 受精卵を使えば,体ができていく過程で起きる遺伝情報の異常と病気との関係などを解明するのに有用であり,不妊症や遺伝性難病の予防・治療に道を開くとの期待は大きいものがある.再生医学の生殖医療への応用を考えた場合,無精子症や早発月経のような絶対不妊などの生殖機能障害を持つ個人から, ヒト胚性幹細胞(ヒトES 細胞),iPS細胞(induced Puripotent Stem cell)を樹立し, 配偶子へ分化させることが可能となれば,精子や卵子の提供を受けることなく,子どもを持てる時代が到来するかもしれない.しかし,生殖医療は,他臓器の再生医療と異なり世代の継承に関与しており,個体にとどまらないという特殊性をもっていることを忘れてはならない.
今後, 生殖医療をどのように発展させていくかは, 人間の智慧が問われるところである.

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