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生殖細胞から探る生命の「始まり」と「終わり」

宮戸健二

2019年度 年次大会-講演抄録 | ART Basic Lecture

学会講師 : 宮戸健二

Abstract

卵は有限な細胞である.一方, 精子は卵に比べて体内で大量に作ることができるが, 運動できない精子は自分の力では卵にたどり着くことはできない.しかしながら, 生殖補助医療(ART)では運動できなくても,1個の精子があれば,細胞質内精子注入法(ICSI法)を用いて子供が誕生することが可能である.さらに, 受精卵を凍結し, 融解して施術に用いることが, ART の分野でも一般的になってきた.しかしその結果,いくつかの問題点が出てきた.日本産婦人科学会に登録された不妊治療ビッグデータの解析から, 凍結融解胚を用いた場合, 自然分娩に比べて新生児の体重が 50 グラム, 新鮮胚を用いた ART で産まれた新生に比べて 100 グラム体重が重くなることがわかった.出産時の体重増加は,低体重に比べて発育の点からは良いとも考えられるが, その後の体重や健康に問題がないか今のところ不明である.また,50グラムや100グラムといった一定の体重差が存在すことから, 特定の臓器に凍結融解の影響が出ていることも危惧される.特に, 脳に障害が出た場合, 発達障害や発達遅延につながる危険性がある.そのため, 現在の技術の安全性を向上させるために, さらなる改善, または全く異なる原理に基づいたARTの確立が必要になるかもしれない.こうした状況の中,生殖研究を出発点として,様々な研究開発の芽が産まれている.例えば, 精子を「女性の腫瘍をダーゲットにした抗がん剤の運び屋」といった研究も行われている.精子の本来の目的は, DNAを特定の目標(すなわち卵)に届け,卵と融合してその中身を注ぎ込むことにある.鞭毛をもつ精子は, これを自律的に行っている.さらに精子は, 生殖器官内部の敵対的な状況(免疫系の攻撃による破壊)に抵抗するための装備ももっている.一方, 腟内には Lactobacillus 属などの乳酸菌が共生細菌として存在することが知られている.さらに, 反復着床不全においては有意に子宮内膜炎の発症が見られ, 抗生剤投与によって, 移植あたり 10% 程度の妊娠率が改善するとの報告がある.こうした結果から, 正常
な共生細菌が妊娠の成立に重要であると推測される. つまり, 共生細菌が産生する D- アミノ酸が生殖機能におよぼす役割が注目されるようになってきている. さらには, 近年注目されている細胞外微粒子であるエクソソーム(特にマイクロエクソソーム)の研究も生殖分野で進んでいる.今回は, 生殖の基礎研究について,「精漿, 共生細菌, ミトコンドリア, エクソソーム」の役割に絞って紹介し, 今後の生殖研究の動向について議論したい.

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