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精子,卵,受精卵の代謝機構とその人為的制御, ARTへの応用

島田昌之

2020年度 年次大会-講演抄録 | 生殖細胞のエネルギー代謝解析から ART へのトランスレーション

学会講師 : 島田昌之

Abstract

子宮内の精子は,ミトコンドリアで合成したATP により直進運動し,卵管では嫌気的解糖系を活性化 させzig-zag運動を行う.また,卵は受精までは解糖 系を利用していないが,受精後に解糖系が活性化さ れる,といったように精子,卵,受精卵は時期特異 的にエネルギー生産機構を変えていくと考えられて いる.私達は,それぞれの代謝機構を活性化させる スイッチのON/OFF制御メカニズムや, そのON/ OFFの時期が狂うことがどのような影響を与えるの か,について検討を行ってきた.

細胞質の嫌気的解糖系(グルコースからピルビン 酸への変換)とミトコンドリアにおける呼吸代謝 (TCAサイクルから電子伝達系)のON/OFF制御につ いて,精子をモデルに解析した.精子は,ミトコン ドリアの呼吸代謝が活性化されると嫌気的解糖系が 不活性化されることが分かった.そこで,ミトコン ドリアから細胞質への代謝制御因子を探索した結果, TCAサイクルの副産物であるイタコン酸が,嫌気的 解糖系の酵素活性を抑制することを明らかとした. さらに,高濃度グルコース存在下において,イタコ ン酸添加が精子の代謝機構をミトコンドリアへとシ フトさせたことから,イタコン酸はミトコンドリア の代謝スイッチをONにする因子であることが明確 化された.この結果から,イタコン酸添加培養液に より,精子の直進運動を持続させることに成功した.  卵成熟には,減数分裂再開後にミトコンドリア数 が増加し,多量のATPが合成される必要がある.裸 化卵を成熟培養した時,ミトコンドリア数が増えな いため,数少ない・機能の低いミトコンドリアが一 過的に著しく活性化する.しかし,活性酸素を除去 できない結果,代謝活性が持続せず,成熟卵で必要 なATP量を合成できない.このような現象は,卵丘細胞を早期に除去した時だけでなく,加齢化卵でも 認められた.そして,ミトコンドリア機能低下によ り,成熟卵の紡錘体が維持されない,あるいは放出 された極体と卵との分離を保持できなくなり,単為 発生や異常受精が引き起こされた.ミトコンドリア の機能が低いならば,細胞質の嫌気的解糖系を活性 化できる(イタコン酸が合成されていない)と仮説立 て,このような低ATP産生卵を高濃度グルコース添 加培養液で培養した.その結果,ATP量が増加し, 第二減数分裂中期で維持されたことから,卵の加齢 化の防止,あるいは裸化卵の培養に応用できると考 えられた.

しかし,高濃度グルコース添加培養液で成熟卵や 受精卵を培養した時,グルコースから合成されたピ ルビン酸はアセチルCoAではなく乳酸へと変換され る.乳酸は,乳酸トランスポーターにより排出され れば細胞質内に影響を与えないが,成熟卵や受精直 後では乳酸トランスポーターの発現が低値である. その結果,乳酸の蓄積により細胞質内のpHが低下し, 受精卵の発生率の低下,特にマウスでは2 cell block を引き起こすことが明らかとなった.これらの研究 結果は,目先のATP合成が,後に活性酸素や乳酸に よる発生異常を引き起こす可能性を示しており,未 成熟卵,成熟卵,受精卵の最適培養環境を構築する ため,内因性抗酸化因子(グルタチオン)の合成機構, 外因性抗酸化因子の効果検証, 乳酸トランスポー ターの発現機構の探索を行っている.

 

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