Papers and Abstracts

論文・講演抄録

自宅から精液持参する場合,受精方法変更リスクが冬季で上昇する

学術集会 一般演題(口頭発表)

2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:佐藤 学1) ・中岡 義晴1) ・森本 義晴2)

1)IVF なんばクリニック 2)HORAC グランフロント大阪クリニック

Abstract

【目的】
体外受精を行う上で夫婦の協力が必要であるが仕事の関係上, 夫の来院は困難な場合には自宅から精液を持参して治療を行うケースも多い.その場合, 季節的条件が持参精液に与える影響は最小限にとどめ たい.とくに体外受精(c-IVF)の場合,精子運動性低下や十分な精子回収ができないなどの要因により顕微授精変更の影響が懸念される. そこで本検討では,c-IVF 予定で自宅から精液持参の場合の各季節の 気温が与える影響について調べた.

【方法】
2017年から2018年に c-IVFを行った1,630周期を対象にした.精液持参の場合は朝8−10時頃に自宅から持ち込まれた後に精液調整を行った.精液は密度勾配遠心とSwim-up 法によって分離精製し,調整後に運動精子が7.5×106/mlを下回る際には顕微授精(ICSI)に変更した.本検討では 1 ヶ月単位または季節(春:3-5月, 夏:6-8月, 秋: 9-11月, 冬:12-2月)に分けのICSI 変更率の推移を調査しその際の精液所見パラメーターを比較した.

【結果】
検討期間の大阪の冬の月平均最低気温は1.3−11,1℃であった.月ごとのICSI変更率は,25.0-56.9%と変動があり,季節ごとのICSI変更率は冬の変更率は52.4%と最も高く他の季節(32.8-36.7%)に比べ有意に上昇 した(P<0.01).冬の原精液の総精子数(51.1×10 /ml)は, 他の季節 (44.5-56.4×106 /ml)に比べ変化がなかったが,運動率は他の季節に比 べ有意に低下した(38.5 vs. 44.9-50.6, P<0.05).また,冬の精子運動 指数 SMIは夏に比べ有意に低下した(94.3 vs. 127.4, P<0.05).冬の ICSI変更になった場合の正常受精率は元々ICSIの症例と比較して差は なかった(83.6 vs. 81.2).院内採取の精液の場合,ICSI変更率は季節の差はなかった(25.4-28.8%).

【考察】

外気温が低下する冬場には特に精子運動率が低下していた.運動性 が低下することで密度勾配遠心の際に分離精製される精子が減少し ICSIに変更になっているものと考えられる.患者要因ではない不必要 なICSIを回避すること, 患者負担を増やさないためにも冬場の自宅からの精液輸送に対する工夫や患者への注意喚起が必要であると考えら れた.

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