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妊娠率を向上させる未来のART

向田哲規

2022年度 年次大会-講演抄録 | シンポジウム1 「多様性が求められる未来のARTについて」

学会講師 : 向田哲規

Abstract

未来のART 医療がどのようなアプローチになっているかを考慮する際参考になるのは,今までART医療がどのように発展してきたかの過程であり,1978 年に世界初の体外受精による挙児が報告されて以来44 年が経過し,ART 医療の両輪ともいうべき臨床部門,ART Labo部門は他の医療現場以上に,社会的・倫理的状況の変化,科学技術の進化・発展に伴って劇的に進化し,そのレベルは遥かに向上してきた.臨床面ではやはり誘発薬剤の種類及びそれを用いたプロトコールが大きく変化し(PPOS法等),また不妊原因検索のための検査も多岐に渡り,子宮内膜受容能検査,内腔の細菌叢検査などは以前全く考慮されなかった分野である.
それと同様に,ARTラボにおいても1990 年付近の通常の媒精による体外受精と初期胚移植しかなかった創成期には考えられなかった顕微授精,培養液及びそのシステムの変遷,ガラス化低温保存,タイムラプス観察・培養,PGTなどが加わり受精率・胚盤胞発達率・着床率は目覚ましく向上した.ARTラボ技術の変遷において着床率の改善に大きく寄与した技術革新には,緩慢凍結法からガラス化低温保存法への進化,従来の顕微授精からPIEZO ICSIへの進化,通常のIncubator内で培養(1~ 2回/日の観察のみ)からタイムラプス観察・培養への進化の3つがある.
胚培養士,今ではART 臨床医にとってこの3つの中で最もインパクトが大きいと考えている技術が,タイムラプス観察である.卵が受精し,その後の分割経過,胚盤胞までの発達経過を培養環境に負荷をかけず何時でも観察でき,その画像を遡ってReview観察が可能になった点は,良好受精卵(胚盤胞)を得ることが最大目標であるART 医療にとっては画期的である.
現在,ART 診療施設の多くがこのタイムラプス観察・培養機器を導入し臨床使用しており,これにより定点観察では見逃していた早期の前核形成,異常な分割経過が判し,PGTへの細胞生検時期の適切な判断など,胚観察・選択の重要なToolである.このタイムラプス機器を観察・胚選別に使うという受動的(Passive)な使用法から,この機器を利用して胚発達及び着床能を改善するという能動的(Active)な利用の仕方も今後の展開とし
てはあり得る.その例として広島HARTクリニックが数年前より積極的に施行しているのが,「Embryo Plasty」であり,これは胚盤胞形成に関係せず,妨げになるフラグメントや遊離細胞片を除去することで,その後の胚発達の改善を目的としている.方法の動画は講演にて供覧するが,フラグメントや遊離割球がある部分の透明帯を大きくレーザーで除去し,胞胚腔の拡大につれてそれらが胞胚腔の外に押し出され,胚盤胞を形成する細胞同士の接着・融合が促進され.これにより通常培養状況では変性に至る可能性が高い胚をHatchedした胚盤胞まで発達させることが出来る技術である.その他,現在通常に施行していることに何か加えて有用性を高める一つにPGT-Aの際にSNVジェノタイピングも併用する点がある.これは胚盤胞の外細胞層の細胞を5-7個程度採取し,その染色体異数性の状態を調べるPGT-Aは細胞生検という胚にとって最も侵襲的な操作が必要であるため,得られる受精卵の染色体に関する情報はCNV 解析による異数性解析だけでなく,SNVを用いた倍数性解析の結果も加えてより精度を高めることは有用である.

「妊娠率を向上させる未来のART」の技術には,NGSの技術の汎用化がPGT-AのART 医療利用を一般化したように,生命科学に関する技術が進化することでART 医療が飛躍的に進化し妊娠率の向上に寄与する面と,前述したように現在行っている技術を見直し進化させることの積み重ねがもたらす面があり,何か良い方法は?と情報収集する姿勢が重要である.

 

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