Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-28 緩慢凍結長期保存後, 融解胚移植し高年齢で生児を得た1例

学術集会 一般演題(口頭発表)

2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:小泉 藍・青野 展也・岡 奈緒・奥山 紀之・橋本 朋子・京野 廣一

京野アートクリニック高輪

Abstract

【目的】
現在国内では,受精卵の凍結保存のほとんどがガラス化法で行われている.今回,海外で採卵し緩慢凍結した初期胚を長期保存した後,融解胚移植で妊娠・出産に至った高年齢患者の症例を経験した
ので報告する.
【症例】
患者は51歳で3妊3産であった. 32歳の時にアメリカの不妊治療施
設でGnRH agonist注射によるロング法にて12個採卵し,そのうち
11個にICSIを施行した.その結果6個受精しDay3で4個の初期胚を凍結した.これらの初期胚はクライオチューブを使用した緩慢凍結法(9% glycerol,0.2M sucrose)で凍結された.長期間滞在の後,
帰国後に患者はその凍結胚の移植を希望し,国内の他施設へ凍結胚
を移送した.ところが,緩慢凍結した胚の融解を行える胚培養士が
いないとの理由で移送した施設に融解胚移植を断られ,患者本人が
実施可能な施設を探していた.当院では緩慢凍結の融解経験者が在
籍していたため施行が可能であった. 51歳という高年齢のため,先に産科施設から妊娠した場合の受け入れの承諾を得た上で当院への
胚の移送と胚移植を決定した.融解方法は2個の初期胚(8細胞期胚,7細胞期胚,共にVeeck分類Grade 2)が凍結されたクライオチューブを液体窒素から出し2分間室温下で静置し,37℃ 2分間加温した.その後チューブ内から胚を含む溶液ごとピペットで吸い取り胚を探し,直ちに0.5M sucrose溶液に1分間投入した.その後0.25M sucrose溶液へ移して3分間静置し,洗浄液にて5分間洗浄を行った.融解した結果,凍結時8細胞期胚のうち7割球が生存し,もう1個の7細胞期胚は3割球生存していた.その後約4時間の回復培養を経て7/8細胞は10細胞期胚へ,3/7細胞は5細胞期胚へ分割が進んだ.そのうち10細胞期胚(Veeck分類Grade 2)を1個胚移植した. 移植はホルモ
ン補充療法で行った.移植後妊娠が成立し,経過順調にて9週に予
定していた産科施設へ紹介した.その後,別の産科施設へ紹介になり,39週で経腟分娩にて3,046gの男児を得た.
【結論】
現在,胚の緩慢凍結は臨床の場で殆ど行われていない.しかし本
症例のように海外や国内で緩慢凍結法にて凍結された胚が存在する
可能性があるため,胚培養士は緩慢凍結法に関する知識を持つ必要
がある.本症例は移植時年齢が51歳と高年齢だったが,32歳時に採
卵- 凍結したものであったため,若齢時に受精卵を凍結保存しておく
ことの重要性が示唆された.また本症例は19年間という長期間保存
の受精卵で妊娠・出産に至った.しかし,高年齢患者への胚移植は
周産期合併症などの観点から産科的にハイリスクである.患者の希
望があった場合には十分なインフォームドコンセントを行い,先に産科受け入れ施設の許可を得た上で慎重に検討するべきである

loading