ART 医療者が患者からの信頼を得るための 何気ないかかわり
2020年度 年次大会-講演抄録|ART医療者が知るべき患者へのメンタルサポート
学会講師:
Abstract
「こころのケア」というと専門的な心理支援を想像する医療者も多いと思うが,実は日常的なかかわりの中にこそ患者からの信頼を得,この施設に通って よかったという患者満足を向上させるポイントがある.ESHREの心理学・カウンセリング専門グループ が発表した「不妊とMAR(医療的に補助される生殖)における日常的な心理社会的ケア―生殖医療スタッフ のためのガイド」(2015)は,心理支援の専門家でない生殖医療スタッフが日常臨床で留意すべき患者へ の心理支援についてエビデンスベースでまとめられ た世界初のガイドラインである.ここで推奨されている心理社会的ケアには,待ち時間を短くすることなどの環境的配慮等に加え,スタッフのコミュニケー ションスキルの重要性が記されている.日常における何気ないかかわりこそが医療者が行うべき心理支 援の大きな柱であることを自覚すべきである.
しかしながら,現実的に忙しい日々の診療の中で 個々の患者とかかわることは容易ではない.まず患者との間に関係を結び,患者の訴えを聴取し,その 中から必要な情報を分析し,的確な診断のもとに治療法の選択肢を提示し,患者治療の同意を得てその治療のために必要な医療行為を指示し実施する,こ れらを効率よく短時間のうちに行わなければならな い.また,生殖医療は成功よりも不成功の機会が多く, 治療期間の予測も最終的な目標である妊娠の保証も できないという医療不信を招きやすい性質を本質的 に内包している.しかも悪性腫瘍のように致死性で ない疾患ゆえに患者の治療への動機づけを保つことも難しく,治療のドロップアウトや患者側からの転院などが起こりやすく,患者と良好な信頼関係を保 ち妊娠まで治療を継続させることには医療者側の不断の努力を要する.
生殖医療を利用する患者が望む医療者のかかわり として,患者と「向き合って」「親身になって」「話を聞 いてくれ」「安心させてくれる」ということがよく言わ れる.しかし具体的に“どうすれば”患者がそのよう に感じることができるのかについては言及されることは少ない.ともすればお題目のように「受容と共感 が大事」と言われてしまい,これでよいのかと悩みな がら日々の診療で患者に接している医療者も多いと 思われる.本講演では,心理支援の専門家でない医療者が,負担なく日常臨床に取り入れることで患者 との関係の質を向上させるかかわりについて,でき るだけ実践的に解説したい