NsのExcellent ARTとは
2017年度 年次大会-講演抄録|日本臨床エンブリオロジスト学会 Workshop Excellent ART への挑戦
学会講師:村上 貴美子
Abstract
本邦のART児の出生が21人に1人となった.ARTの発展と普及とともに看護の対象もカップル間のARTに加え,第3者が介在する卵子提供やAID,がん治療前の妊孕性温存,更には社会的適応の卵子凍結,着床前診断・スクリーニング,そこから生まれる児など広範囲に及び,倫理的な課題も含め複雑な対応が要求される.
マズローの欲求の中で,通常の医療は生きていくための基本的な欲求を満たすのに対し,生殖医療は5段階の欲求の中でも最も高次の自己実現の欲求に近い医療である.そのため,ARTでは,排卵誘発や採卵,胚の培養,凍結,移植などの安全性や質の高さだけでなく,倫理面も含め患者が安心し納得できることが特に重要である.
その中で,看護は熟達した看護技術を提供し,情報提供や相談を通して医師とともに,時には患者の代弁者となり患者の自己決定を支える役割をもつ.看護師は熟達した看護技術をもたなければ患者の信頼は得られない.
しかし高い技術をもっていても一人の人間としての患者を理解し,寄り添う気持ちや姿勢を示すことのできない看護師も患者の信頼は得られない.両者が備わってはじめて看護の役割である患者の安全・安心を守り,納得した自己決定の支援が行える.
現在,少子高齢化の進行により,我が国の生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じている.国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると,生産年齢人口は2030年には6,773万人,2060年には4,418万人にまで減少すると見込まれている.今後ARTを受ける患者の人口も減少するだろうが,看護職も同じ傾向で減少するだろう.
このような状況下でExcellent ART施設であることが生き残りに求められる資質であり,その一翼を担う看護職の人材確保および育成も重要である.
本シンポジウムでは,当クリニックの看護師教育とこれまでの看護部の取り組みについて触れ,テーマとして与えられているExcellent ARTの中でのNsについて考えたい.