Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-12 培養液中のEDTAがICMの接着 に及ぼす影響

学術集会 一般演題(口頭発表)

2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:園 菜々美1)・田﨑 秀尚1)・2)・大月 純子1)・2)

1) 岡山大学大学院環境生命科学研究科生殖補助医療学研究室
2) 岡山大学生殖補助医療技術教育研究センター

Abstract

【目的】
一絨毛膜二羊膜(MD)双胎は胚盤胞までの長期培養で頻度が高
くなることが多数報告されているが,その要因は未だ不明である.我々はICM 細胞間の緩み(割球化)がICMの分離を誘起し,MD双胎の原因に繋がる恐れがあることを報告してきた.培養液に添加されている物質のうち,EDTAは胚発生を阻害する重金属をキレートし,発生率の向上に寄与するとされる.一方,Ca2+・Mg2+ をキレートすることで細胞間結合が弱まる可能性が否めない.よって本研究では,培養液中のEDTA がICMの細胞間接着に及ぼす影響を調べることを目的とした.
【方法】
実験1:8-12週齢のICR 雌マウスと9-15週齢のICR 雄マウスを
実験に供した.過排卵刺激により採卵し,体外受精にて得られた
受精卵をEDTA 濃度の異なる0.1% BSA 添加KSOM-AA 培地
(EDTA: 0, 2.5, 5.0, 7.5, 10, 20μM)にて培養し,各濃度区の胚盤
胞発生率を評価した.実験2:従来使用されているEDTA 濃度(10μM)を対照区とし,実験1の低濃度群において最も発生率が高かった2.5μMを低濃度区とし以下の実験を行った.抗Oct4抗体を用いた蛍光免疫染色にてICMを識別し,二区間におけるICMの
散在・分離状態を調べた.実験3:対照区と低濃度区における胚
盤胞を抗E-cadherin 抗体を用いて蛍光免疫染色し,蛍光輝度を
比較検討した.実験4:透過型電子顕微鏡(TEM)にてICMの細
胞間結合の微細構造を調べた.
【成績】
今回作製した培養液において,各EDTA 濃度区における胚発生
率に有意差はみられなかった(P=1.000).Oct4陽性であるICM 細胞の散在・分離異常がみられた胚の割合は対照区で40.6(41/101),低濃度区で16.2%(18/111)であり,EDTA 濃度10μMの対照区にて有意に高いことが判明した(P <0.001).対照区と低濃度区におけるE-cadherin 蛍光輝度に有意差はみられなかった(P=0.178).TEMの結果,両区のICMに間欠的なギャップ結合が確認された.
【結論】
本研究により,従来のEDTA 濃度(10μM)ではICM 細胞が散在・分離する確率が有意に高くなることが判明し,長期培養で高率となるMD双胎は培養液中の過剰なEDTAに起因している可能性が示唆された.従来のEDTA 濃度より低濃度であっても胚発生に影響を及ぼさないことが判明したことから,MD双胎は,培養液中のEDTA 量を減少させることで阻止できる可能性が考えられる.また,EDTA 濃度とE-cadherin 蛍光輝度に関連はみられず,電顕像から間欠的に存在するギャップ結合が観察されたことから,今後はギャップ結合部位数の変化を検討予定である.

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