Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-22 胚質不良症例における短時間媒精は有効か

学術集会 一般演題(口頭発表)

2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:渡部 茉美1)・中野 達也1)・佐藤 学1)・中岡 義晴1)・森本 義晴2)

1) I VF なんばクリニック
2) HORAC グランフロント大阪クリニック

Abstract

【目的】
c-IVF では卵子を多数の精子と共培養するため、活性酸素種な
どによる卵子へのダメージが懸念される。精子は通常媒精後2 ~ 3
時間で卵細胞膜に到達できることから、3 ~ 5時間の短時間c-IVF
の実施により妊娠率の向上が報告されている。当院で多数の採卵
個数が確保できた患者を対象に行った検討では,胚質不良症例に
おいて短時間媒精を行うことで正常分割胚率と胚盤胞到達率が上
昇を示した(日本生殖医学会, 2021).今回,過去の採卵にて胚質
不良を認める患者を対象とし,短時間媒精による胚質改善が有効
であるか検討した.
【方法】
過去の採卵において胚盤胞到達率が40% 以下であった患者で,
2021年10月~ 2022年6月に採卵した12症例を対象とした.同意を
得て採卵し、運動精子濃度が10×104/mlになるよう媒精した。媒精後3時間で裸化・培地交換し,媒精後20時間で受精確認を行った。
過去採卵(20h群, 14周期, 採卵131個)と短時間媒精(3h群, 21周期,採卵105個)それぞれの成熟率,受精率およびDay 3までの胚発生を比較した。Veeck分類を用いて,grade 2以上かつ7cell 以上を良好胚,grade3以上かつ5cell 以上を凍結可能胚とした.
【成績】
裸化直後の成熟率に差は無かった(86.3 vs. 85.7、p=0.90).そ
のうち正常受精率にも差は無かったが(73.5 vs. 65.6, p =0.22)、異常受精率は20h 群よりも3h 群が低くなった(15.0 vs. 5.6、p <0.05).Day3での分割率に差はなかった(96.4 vs. 96.6, p=0.66)が,3h 群の凍結可能胚率(37.5 vs. 55.4, p <0.05)と良好胚率(7.5 vs.26.8、p<0.01)が高くなった。また,第二分割までの正常分割率(18.8vs. 31.5, p=0.08)も3h 群で高い傾向があった.
【考察】
胚質不良症例において成熟率と正常受精率に差は無く,異常受
精率が低下したことから,媒精時間の短縮による正常受精への影
響は少なく,むしろ多精子侵入を防止できたと考えられる.対象を胚質不良症例としたためBL 培養予定の症例が少なく,BL 到達率の算出はできなかったものの,分割期における3h 群の胚質向上がみられた.このことから精子との長時間培養で卵子は何らかのダメージを受けていることが示唆された。よって,媒精によるストレスを減らすことで胚質が改善し,治療利用胚の増加につながる可能性がある.

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