Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-5 5-HT 受容体を介するヒト精子の 運動性調節

学術集会 一般演題(口頭発表)

2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:表 摩耶・長谷川 昭子・杉山 由希子・脇本 裕・柴原 浩章

兵庫医科大学医学部産科婦人科

Abstract

【緒言】
不妊症のうちWHO(世界保健機関)では約50%は男性因子とさ
れている.本研究では5-HT(5-hydroxytryptamine: セロトニン)
と精子機能に着目した.5-HT は必須アミノ酸のトリプトファンからトリプトファン水酸化酵素(TPH)を介し合成される.生体内では様々な生理機能を調整しモノアミン系神経伝達物質として作用し,腸管蠕動運動,血管収縮,血小板凝縮を担い,松果体ではメラトニンの前駆物質でもある.生殖器官ではホルモン合成と分泌の調節,配偶子の形成や機能調節に関わる.精子においては,ハムスターで先体反応誘起(Meizel and Turner, J Exp Zool 1983)や,超活性化促進(Fujinoki, Reproduction 2011)が観察され,またマウスの超活性化惹起と体外受精における受精率の向上が報告されている(Sugiyama, et al. J Reprod Dev 2019).さらにヒトにおいて運動速度を上昇させる報告もある(Jiménez-Trejo, et al.
Reproduction 2012).また,5-HT 受容体は主に中枢神経系にお
いて14種類が発見されている.生殖器官においてはハムスター精子から5-HT2と5-HT4受容体(Meizel and Turner 1983; Fujinoki
2011)が,マウス精子から5-HT2,5-HT3,5-HT4,5-HT7受容体
が検出されている(Sugiyama, et al. 2019).また,ヒトとウマ精子から5-HT1B,5-HT2A,5-HT3受容体が検出されている(Ji ménez-Trejo, et al. 2012; Jiménez-Trejo, et al. Histol Histopathol
2018).本研究では,ヒト精子でのTPH 発現と5-HT 受容体の発
現を検討し,また運動性に影響する5-HT 受容体を検討した.
【方法】
スイムアップ法で運動性良好精子を回収して用いた.TPHと
5-HT 受容体は免疫染色法により検出した.精漿中の5-HTは酵
素結合免疫吸着検査法で測定した.5-HT 受容体拮抗薬の精子運
動性への影響はCASAで解析した.
【結果】
ヒト精子においてTPHは中片領域に局在していた.5-HT 受容
体のうち,5-HT1B,5-HT4,5-HT5A,5-HT6,5-HT7受容体は
頚部領域に局在した.さらに,5-HT2A,5-HT3A および5-HT5A受容体は,ヒト精子の赤道部に局在していた.運動性に関しては,5-HT2A受容体拮抗薬は精子の運動性,速度,頭部振幅を有意に減少させた.
【結論】
ヒト精子は5-HTを産生し,5-HT2A 受容体を介して運動性を調
節していることが示唆された.

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