PGT-Aのデータから考える胚移植個数
2023年度 年次大会-講演抄録|Current topics 3
学会講師:岩佐 武
Abstract
近年の生殖医療の発展は目覚ましく、成功までに長い年月を要した体外受精・顕微授精も現在では一般的な治療として世界各国で実施されている。わが国では年間40万周期以上の生殖補助医療(ART)が行われ、これにより6万人以上の子どもが誕生するなど、世界でも指折りの生殖医療大国となっている。日本のARTの特徴として多胎率の低さが挙げられるが、これは全国の施設が「移植胚数は原則1個」とする日本産科婦人科学会の見解を遵守してきた結果であり、世界に誇るべき内容と言える。一方、ARTの保険適用によって移植回数に対する意識が高まり、今後高齢患者を中心に二個胚移植(DET)が選択されるケースが増えることが危惧されている。
今後の胚移植のあり方を検討する上で、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の臨床データは非常に重要な意味を持つと考えられる。わが国で実施したPGT-A特別臨床研究によれば、生検を実施した胚における正倍数性胚の割合は、30代前半で30%前後、30代後半で20%前後、40歳以上で10〜20%と女性の年齢が高くなるほど低下していた。一方、正倍数性胚を移植した場合の妊娠率は70%前後と高く、これはいかなる年齢層においても同等の結果であった。これらの結果から、PGT-Aを実施していない胚についてはSETを原則としながらも年齢を含め様々な視点から移植胚数を検討すること、およびPGT-Aによって正倍数性とされた胚についてはSETを厳守することが必要と考えられる。なお、治療の効率性と多胎予防の観点から、特に高齢患者についてはPGT-Aを早い段階から選択すべきとの意見が挙がっているが、現在の見解細則では一定の条件を満たすまでPGT-Aを実施することはできない。こちらについては今後新たな臨床研究を立案するなど、有効性について科学的に評価する必要がある。
わが国のARTおける多胎率の低さは先人達の努力によって培われたものであり、我々にはそれを維持する責務が課せられている。多胎は患者家族の一生に関わる事案であることを肝に銘じ、新たな医療技術を適切に取り入れならがさらなる予防に努めることが必要と考えられる。