Papers and Abstracts

論文・講演抄録

What’s Next?  スマートタイムラプスが導く個別化ART 戦略

安藤 寿夫

2022年度 年次大会-講演抄録シンポジウム3「これからのIVF-ET に必要な個別化治療」

学会講師:安藤 寿夫

Abstract

Time to pregnancy/live birthという概念が我が国でも注目されるようになってきた.生殖補助医療(ART)が2022 年4月に保険適用となり,生児獲得を早期に実現するpowerfulな選択肢として明確に位置付けられ
た.男性の参加と胚移植の回数制限に象徴される保険診療の制度設計には,患者夫婦(カップル)の望む家族のかたち(ファミリープラニング)を短期間で実現してほしいという意図が読み取れる.この仕組みの中で効率的かつ効果的な戦略を練り直す必要が,ART実施保険医療機関に求められることとなった.
タイムラプス胚培養法が『タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養』という先進医療技術名で保険と併用可能となった事は喜ばしい事である.しかし,残念ながらタイムラプスで臨床成績が良くなるのかという事や胚選択の精度ばかりに注目が集まっていて,エビデンス重視の保険診療との相性の悪さが感じられた.タイムラプスは患者中心ケア(patient-centered care)の主役となり得るツールであると私は考えてきた.タイムラプスにより,それまで胚培養士や医師等に限定されていた胚画像情報が,患者に対しても『見える化』され情報共有された意義は大きい.しかし,この『見える化』と情報共有が症例毎に生殖における問題点を『胚培養検査結果』として浮き彫りにし,生殖と密接に関係する病態や生活習慣の不具合についての理解や次回への対策に役立っていることは,意外と知られていない.

全例タイムラプスを15 年間続けてきた中で,地元在住者のみを対象とし男女両方の受診を必須としていた当院は,地域の拠点病院であることも手伝って不成功の場合や次子希望の場合のリピーターが非常に多かっ
た.タイムラプスを始めた頃の時代背景としては,いわゆる医療介入なしに生児獲得可能な20歳代のカップルをゴールデンスタンダードとした『生殖生理』に基づく不妊症学に意義を唱えるように,卵子減数分裂時の加齢による染色体不分離がもたらす妊娠率低下と流産率上昇が国民全体に啓発されてきた.しかし,タイムラプスARTを行う当院では,染色体不分離と違い解決可能な様々な問題点がタイムラプス胚培養によって『見える化』された.さらに最近では自動アルゴリズム化による客観的評価も加わったスマートタイムラプスが,What’sNext?の個別化戦略に納得のいく患者説明データとなった.女性側の代表的なものとしては,多嚢胞性卵巣症候群,子宮内膜症,肥満,亜鉛欠乏による胚発生異常がクローズアップされた.さらに,採卵直後の説明に必ず配偶者男性を受診させることにより男性の喫煙(初診で指導しても継続)や肥満や精液中の細菌が反復不成功や流産の要因となっていることもクローズアップされた.
本講演では,タイムラプス胚培養結果に予期せぬ問題点が生じたときに,どのようにWhat’s Next?の戦略を練り,実践した後にどのように胚発生が改善して良い結果が得られたかの実例を4,000 例超のタイムラプ
ス実験例の中から時間の許す限り示したい.タイムラプスは問題点を的確にクローズアップしてくれて,患者さん(カップル)が納得して主体的となり,生児獲得のみならずTime to pregnancy/live birthを短縮するツールであることが,この講演をきっかけに実証されていくことを願う.

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